ウメの種子の発芽に関する根本的な見直し

今迄は ウメの種子には 発芽抑制物質があると言う前提で投稿して来ましたが、専門家の方から「ウメやアンズの種子には、胚や種皮に『休眠物質』がある」と言う情報が有りますと 助言を頂いて、この発芽抑制機能について もう一度 根本から見直して、発芽過程について 新たな仮説を立ててみました。

発芽抑制

私は 「ウメは 纏めて播くと 発芽しない」と言う現象から、ウメの種子には 発芽を抑制する 何等かの機能が有るに違いないと考え、何度も色々な実験を繰り返し その現象を確認して来ました。ただ その際「発芽しない」と言う現象を 十分検討していませんでした。そこで今回は 休眠物質の存在も考慮に入れて、「発芽しない」と言う現象を、根本から見直して 考察を進めて行こうと思います。

この「発芽しない」と言う現象には、「種子が死んでしまったから 発芽しない」と、「種子は生きているが 発芽しない」と言う2通りが考えられます。一般の果樹の果肉には 種子を発芽させない機能が有りますが、これらは全て 果肉によって 種子が死んでしまうので 発芽しないのでしょう。つまり 発芽を抑えたのではなく、死んだから 発芽出来なかったのです。もう一つの「生きているが発芽しない」と言う現象には、樹木よりも 野草の種子に良く見られる「休眠」と言う現象が有ります。

私のこれ迄の検討では、この「発芽しない」の中に「休眠」と言う要素は 入れていませんでした。そこで ウメの種子の発芽しない理由を考えるには、種子が死んでしまったから 発芽しないと、休眠の機能が働いて発芽しない の2つに分けて捉える事にしました。そこで「発芽抑制」とは、「発芽させない事を目的にした行為」と定義してみました。すると 種子を死なせたり 休眠させたりする行為は、発芽抑制の手段となります。この頂いた情報の 休眠物質は 発芽抑制物質となります。

休眠物質

教えて頂いた情報によると、休眠物質は 種子の胚と種皮に含まれ、5℃で30日間置くと消滅するそうです。ウメの種子は 秋には発芽の準備を始めて、初冬には発根をしておかないと、春の発芽には 間に合いません。ですから 秋の初めには 休眠物質は消滅して 休眠を解除しておかなければならないので、この消滅条件の温度と期間は 冬の環境に対応したものでは有りません。助言された情報では、種子の殻を外して播くと 発芽しないそうです。私も同じ実験をしており、同じ結果が出ています。

ではこれ迄 発芽抑制物質としていた物は何か

これ迄の実験から ウメの種子は、この「休眠物質」とは別の 発芽に関連する 何かの物質を 外に出している事は事実です。これ迄は 「この物質が 発芽を抑制している」として来ました。でも この物質が 何の目的で種子を殺してしまうのか、まだはっきりしていません。この「発芽抑制」の機能がはっきりしないのならば、この物質は「発芽抑制物質」とは呼べません。でも 発芽の過程では この物質が、一夏かけて 種子の休眠を解除していると見られる事から、休眠機能を解除する「休眠解除物質」と呼ぶのが妥当かと思います。「休眠物質」は種子の中側から働き、「休眠解除物質」は これまでの実験から 種子の外側から働く様で、纏めて播くと 多数の種子の休眠解除物質は、重なり合って濃度が高くなってしまいます。

その「休眠解除物質」の概要は、これ迄の実験から推察すると 次の様な物になります。

・発生箇所は、種子の殻の外側の多孔質の部分の様です。殻の構造を観ると、胚に接する内側部分を 硬く緻密にして 水密性を持たせ、外側から滲出するその物質を 胚に直接触れない様にしているのでしょう。

・発生期間は、梅雨明け後の気温の高くなる 1ヶ月程と思われます。その物質が 殻の外側から徐々に滲出して、少しづつ殻の内側へ取り入れられる期間として 1月間必要なのでしょう。

・滲出の仕方は、一度に滲出せず ゆっくり時間をかけ、種子の中の休眠物質に働きかける様です。約4℃以下の低温にすると 滲出は止まりますが、休眠物質の様に消滅はせずに 殻に残り、温度が上がると又滲出し始める様です。

・性状は、水溶性で 直ぐには分解しない様で、水に溶けて移動する様です。

・濃度が高くなると 殻の中の胚を死なせてしまう様です。その為 濃度が高くならない様 少しづつ出しているのでしょう。既に発芽している株には、致命的な影響は及ぼさず その成長を遅らせる程度の影響で済む様です。

ウメの種子の発芽行程の仮説

以上の事から ウメの種子の発芽過程を追って、休眠物質と休眠解除物質が、次の様に関わっているとする仮説を立ててみました。

ウメの果実は 初夏に完熟して 動物等に食べられて、果肉が無くなった状態で 地上に播かれると、休眠物質の働きで 直ぐには発芽出来ません。夏の暑い季節になると、種子の殻の外側から 徐々に休眠解除物質が滲み出して来て、周りの用土に 低濃度で溜まると その物質を水に溶けた状態で 種子が吸収し、種子の休眠物質が壊されて行きます。夏の終わりには 種子の休眠物質が ほぼ無くなり、それに合わせる様に 休眠解除物質もほぼ出尽くして、種子は 秋には発芽準備を始めます。もしこの時 複数の種子が近く在ったり 用土の容積が小さかったりすると、用土中の休眠解除物質の濃度が高くなり、夏の終わりには 種子は死んでしまうのでしょう。種子はこの後 初冬に発根して そのまま冬を越し、春に地上に発芽して来るのです。

これ迄の実験結果と この仮説との整合性

果実を6月に収穫し 果肉を綺麗に取り除いた種子を、1カ所に纏めて播いたり、種子1個当たりの容積を 直径と高さが12cmの鉢以下にして播くと 発芽しません。秋にその種子を調べると その時には既に枯死しています。ただし それ以下の容積の鉢に 1個播いて、夏の間1日1回 たっぷり給水すれば 発芽します。これは 用土の休眠解除物質の濃度が、高くなった場合は 種子が枯死し、多量に長期間給水すると 水と一緒に流され その濃度が薄くなり、発芽出来たと考えられます。

湿らせた新聞紙に包んで冷蔵庫に 8月末まで保管し、9月に 大きめの鉢に纏めて播いてみると、9月末迄に 鉢の周辺部に 3本発芽し、そのまま冬を越しました。翌春には 1本も発芽しませんでした。これは 長期の低温で休眠物質が消滅し 休眠解除物質も滲出せずに 夏が過ぎ、秋になって 残っていた休眠解除物質が 再度滲出し始めて、種子を殺してしまったのでしょう。ただ 周辺部はその濃度が低かった為、苗は死なずに 一部が秋に発芽したと考えると 説明が付きます。

木炭を大量に敷き詰めたプランターに 種子を纏めて播くと、直ぐ発芽せずに 3年目の秋に 端の方の数本だけが発芽して来ました。この3年間も休眠状態になってしまった理由は、休眠解除物質が 木炭に吸収された事以外 まだ良く分かりません。

また 種子の殻を外して播くと、全く発芽しませんでした。これは種子の殻から出る休眠解除物質が無いので、種子の休眠状態が 冬迄保持され 冬の低温で休眠物質が消滅しても、春の発芽には間に合わず 夏の暑さで 休眠していない種子は 死んでしまうのでしょう。

休眠物質と休眠解除物質の目的

この休眠物質と休眠解除物質を組み合わせた機能の目的は、前回の考察通り 秋に発芽してしまう事を避ける為でしょう。

仮説から導き出される結論

この『ウメの種子を纏めて播くと 発芽しないのは何故か』と言う 最初の疑問に対する答えは、この仮説からは 『休眠解除物質の副作用で起きている現象である』です。即ち 種子を殺してしまうのは、何かを意図した機能として 起きている現象ではなく、纏めて播いた時の副作用として起きている と言う事です。ですから この現象に何か意図が有ると考えて、その意図を探ろうとしても 無意味だったのでしょう。ウメにとって 種子を纏まって播かれて、発芽出来ない状態になっても 重大な影響は無いと捉え、その副作用を避ける様な進化はしなかったのでしょう。

未解明の事項と補充実験

この仮説では 説明出来ない事項として、人工的に発芽抑制を解除し 秋に発芽させると、新芽の芽出しと落葉が狂ってしまう事です。この現象が 発芽後2年目迄現れますが、3年目以降も続くのか まだ分かりません。更に 秋に発芽させると 全てそうなるのか、資料数が少ないので 良く分かりません。また木炭の播き床に纏めて播くと、3年間も休眠する株が現れるのは何故かも まだ良く分かりません。

この仮説を確定するには、仮定の内容に沿った補充の実験が必要になると思います。今後は 他の植物の栽培研究の合間をみて、一つづつ進めてみます。その結果が出ましたら 又投稿します。