ウメの種子の発芽抑制機能の再検討

ウメの種子の発芽抑制機能については、以前から何度か投稿していましたが、最近その機能の目的に関して 従来とは別の意味があるのではと思い始めました。その新たに気付いた この機能の目的について 投稿します。また この機能とは別に ウメの種子には 休眠をさせる機能が有ると助言を貰いましたので、それについても 付け加えておきます。

従来考えていた発芽抑制機能の目的

発芽抑制機能の調査のきっかけは、20年以上前に 関西の梅農家のお年寄りから、「ウメの種子を纏めて播くと 発芽しないのは どうしてかね」と質問された事からです。当時は そんな情報は聞いた事が無かったので、「果肉による影響だと思います」と答えておきました。でも どうしてもその事が気になって、その数年後から ウメの種子の発芽抑制機能について 調べ始めました。

調べ始めて直ぐに ウメの種子には、果肉とは別の発芽抑制機能が、確かに存在する事が分かりました。以来 毎年色々な実験を通して、果肉の影響とは別に 発芽抑制機能が有り、その詳細な仕組みが かなり分かって来ました。その詳細について 興味のある方は、過去の投稿を参照して下さい。

ただ その機能の目的は 始めに質問された「纏めて播くと 発芽しない」に引きづられて、種子が纏まった状態に置かれると 自らを発芽出来ない状態にする事、即ち ウメが 纏まって生えると 株同士で競合するので、それを避ける為の機能であると 決めつけていました。でも そう決め付けるには 何か違和感を感じていました。

新たに気付いた 発芽抑制機能の別の目的

この発芽抑制機能を調べて行く内に、偶然に冷蔵庫に保存して置いた種子の中の幾つかに 秋に発芽する者が有り、そこからこの発芽抑制機能は 低温に遭うと その機能が働かなくなる事が分かりました。その9月に生えて来た株は、そのままの姿で冬を越して 春に通常の新芽を出して、9月にはそれらの葉は落ちました。不思議な事に 9月にその株の根元付近から 新芽が伸び出して、20cmほど伸びたところで 止まっています。

f:id:tanemakijiisan:20231126162219j:image9月に伸びて来た 新芽で、11月下旬の状態です。

この現象の原因を考えて行く内に、今迄考えていた発芽抑制機能の目的が、違うのではないかと気付きました。その新たに気付いた目的は 次の様なものです。

ウメは 落葉樹の果樹で、果樹の中では 珍しく真冬に開花します。冬至梅の様に12月に咲き始める品種も有ります。冬に花が咲き始める果樹として この件に参考になる物に、他にビワが有りますが これは常緑樹です。この様に ウメは開花が早いので、5月から6月にかけて 実が完熟します。もし 6月末に播かれた種子が 直ぐに発芽を始めてしまうと、9月には芽を出してしまい その直ぐ後に冬が来てしまいます。落葉樹にとっては とても不都合な状態になります。ただ 幸か不幸か 最近は温暖化のせいで、当地では 冬でもそれほど冷え込まなくなり、落葉樹でも新葉であれば そのままで 冬を越せる様になりました。でも これは局地的な現象で、一般的な地域では 落葉樹の葉は 新葉であっても 冬を越せないと思います。一方 ビワの方は 初夏に播かれた種子は、秋に発芽してしまいますが 常緑樹なので そのまま冬になっても 不都合は無いのです。

ウメは この発芽を 来春迄抑えておく為に この機能が有り、9月になって 発芽準備を始め 11月から12月に 発根し、翌春に発芽させているのでしょう。これを確認する為に ウメに近いアンズとモモについて、同じ様な発芽抑制機能を持っているか、来年 種子を播いて 調べてみようと思います。これらは ウメよりも 開花や種子の完熟時期が、1月半から2ヶ月遅いので 発芽抑制機能を具えていない可能性が高いのではと思います。もし それが無ければ 新たに気付いた、発芽時期を遅らせる目的の方の裏付けになります。

種子の休眠機能

専門家にこのウメの種子の発芽抑制機能について質問したところ、ウメやアンズの種子には 胚や種皮には 休眠物質が含まれているとの事で、この物質は2~4℃低温に 30日以上置くと消えるそうです。この情報は 私が以前やったウメの殻を割って 中の種子だけを播いたところ、1本も発芽しなかった実験結果と付合します。また 種子を冷蔵庫に 30日以上保存して播くと、直ぐに発芽してしまう事にも 付合します。

今までこの休眠機能について 全く考慮していませんでしたが、ウメの種子は 発芽抑制機能と休眠機能の相互作用の結果で、上手く発芽出来ていると考えられます。発芽抑制物質は 休眠物質の作用を排除する働きも考えられます。殻を割って種子だけにすると、休眠機能だけが働き 秋に休眠が解けず、最終的には種子は 死んでしまうのでしょう。

従来考えていた目的と 新たに気付いた目的の比較

従来の発芽抑制の目的で 合理的と思われた説明は “競合を避ける“ ですが、それを敢えて突き詰めて考えれば 競合してもそれ程の不都合は無く、競争の結果 その中の強い者だけが生き残れば、返ってその方が好都合とも考えられます。そう考えると この競合を避ける説は、意味が無くなります。

新たなその目的の方は、発芽時期を 落葉の時期に 勝ち合わない様にする事です。その目的を達成する為に 高い気温で出る発芽抑制物質を使って、秋になる迄 発芽準備作業を遅らせていると考えられるのです。その期間に 発芽抑制物質が休眠も同時に解除しているのでしょう。その抑制をかける方法として 1個の種子が出すその物質の濃度を使っているので、種子を纏めて播く等の用土の濃度が 必要以上に濃くなると 本来の目的とは違う副作用で、秋迄に種子が死んでしまい 発芽しない現象が起こるのでしょう。この濃度による事を裏付ける事象として、種子を播く容器の容量を 直径12cm以下の鉢にすると、容量が小さく その分濃度が高くなり 発芽出来なくなる現象が起きます。更に 用土に長期間多量に給水すると、水溶性と思われるその物質の濃度が下がり 小さな鉢でも発芽抑制機能は起きません。また 種子を4℃以下にして 1ヶ月置くと、この抑制物質は出されずに 休眠物質も消える様です。

以上 両者を比較すると、新たに気付いた目的の方が 合理的な様に思えます。

未解明事項

どちらの説を採用しても まだ未解明な事が残ります。それは 実験で 発芽抑制機能を止めて 秋に発芽させて、そのまま冬を越して 春に新芽を出して、秋に葉が枯れた株が 9月に2度目の新芽を出した事です。前年の発芽抑制機能を止めた影響が、2年目にもまだ出ている事になります。これとは別に 木炭を使って 発芽抑制物質の濃度を下げると、濃度が種子が死ぬ限界近くになって発芽が出来ず 休眠も解けず、種子は死なずに長期休眠状態になる様です。

f:id:tanemakijiisan:20231126162431j:image3年間の休眠を経て、9月に発芽した株です。11月末迄に 合計5本が 発芽して来ました。

この休眠から覚めた種子の発芽は、春ではなく これも秋になりました。これらの株が 何故発芽抑制機能を止めると 発芽が秋になるのか、また 先の株と同様に 来年の9月に新芽を出すかを調べてみます。