ヤマユリの木子の調査

秋の山の林の中のを歩いていると、偶にまだしっかりと緑の葉を付けているヤマユリに出会います。ヤマユリは 元々日当たりの良い所ではなく、木漏れ日のさす明るい林の中を好みます。でも個体差や地域によっては、開けた日当たりの良い平地の草地に自生する株も有りましたが、最近の気候の温暖化による高温で、それらの株は 殆ど消えてしまいました。今では 里山や低山の林の中の株でも、気温の上昇により 夏の終わり近くには、殆ど葉を落として 消滅が始まっている様に見えます。そんな中で 日当たりのとても悪い場所で、秋の終わりまで葉を付けている株が 僅かですが 見られます。更に 今より温暖化が進めば、この様な株しか生き残れないでしょう。そこで この様な暗い場所でも自生出来る株が、どれくらいの繁殖力を持っているのか、株が木子を作る能力を通して 調査してみました。ただ 減少している貴重な植物ですので、出来るだけ株に影響を及ぼさない様に 調査しなければなりません。そこで 秋にその様な株を見付けたら、場所を正確に記憶しておいて、初冬に葉が枯れてから 調査します。調査は 球根を傷めない様に 枯れた茎と上根だけを掘り上げ、その茎に付いている木子を採取する方法で行います。掘り上げ方は 茎を中心に 半径5cmで全周を、深さ7,8cm迄 小さいスコップ等の刃を差し込み、その後 茎を軽くゆすって 夏に作られた新しい球根から分離して 茎と上根をそっと引き抜きます。茎を掘り上げた穴は、丁寧に土を埋め戻し 土を軽く締め固めておきます。こうすると 地中に残った球根を 殆ど傷めません。掘り上げた茎に付いた上根と土を、手で丁寧に少しづつ 取り除いていきます。茎に付いた木子が見えたら、そっと取り出します。

f:id:tanemakijiisan:20231207221040j:image中心に有るのが 今年の茎で、右の短いのが 去年の茎です。

 

今回調べた株は 高さ1.5m程で、今年は花を2,3輪付けた様で 種子の方は不完全な小さい鞘が 1個だけ付いていました。葉は11月上旬迄 全部残っていて、耐暑性は かなり強い様に見えました。そこで 木子は 多ければ30個 少なくても10個は付けていると予想したのですが、残念ながらこの株には、木子が1つしか付いていませんでした。それも今年出来た木子ではなく 去年出来た 細く痩せた木子で、今年出した1枚葉の痕跡が有りました。種子は 鞘の中に 本来なら 300粒程有る筈が、3粒しか入っていませんでした。

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去年の晩秋に 家に有った 耐暑性が強く 8時間以上直射日光に当てたヤマユリを、2鉢掘り出して 調べてみた資料が有りますので、それと比較してみました。その時調べた株は、木子を2鉢で 大小合わせて 115個付けていました。特に木子の多い鉢を選んだ訳では無く、鉢が壊れしまったので 調べたもので、元は1鉢 1株で植え付けたものです。

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その時の資料と この株を比較すると、この自生株は 地上部の草姿からは とても元気に見えましたが、株としては 繁殖力の余裕は殆ど無い状態と考えられます。やはり ヤマユリにとっても 直射日光に当たる事は、繁殖力にとって とても重要な事なのでしょう。でも 近年の温暖化の状況下では、高温で長く直射日光に当たる事は、よほど強い耐暑性を持っていないと 耐えられないのです。少し耐暑性を持っている程度では この様な暗い場所でしか生き残れないのでしょう。この株は 今の様な強い日差しを避ける所であれば、今よりもう少し高温になっても生育出来るかも知れません。それでもこの株も 今の様な状況では 何かちょっとした外乱を受けると、簡単に消滅してしまうでしょう。

ですから 出来るだけ早く、直射日光に長く耐える 耐暑性の強い形質を持った株を探し出し、人工交配で 耐暑性の強い株を増やして 野生の中に戻さなければ、ヤマユリは消滅してしまいます。

因みに この様に採取した木子は、鉢に植えて 庭の日当たりの良い場所に置き、直射日光に当てて その株の耐暑性を調べます。もし 強い耐暑性を持った株であれば、耐暑性の強い株を作り出す為の 交配株に使います。植え方は 他のヤマユリと同じ様に、木子の下根を完全に切除し 固く詰めた炭の上に植え付けます。肥料分は 乾燥防止用に置いた 小枝のチップしか与えてはいけません。その詳細は 以前の投稿を参照してください。

ユリの仲間が 気候の温暖化により、繁殖が脅かされている事象がもう一つ有ります。それは花粉を媒介する虫の極端な減少です。この現象は 30年くらい前から 少しづつ起きて、10年くらい前からは 庭のユリに殆ど虫が来なくなりました。人工交配するには 目的外の花粉が付かない様に 予防処置を採らなくても済むので楽ですが、野生の中のユリにとっては死活問題です。折角生き残った耐暑性を持った株が、その形質を 花粉を介して 広げて行こうにも、その手段が無くなってしまったのです。これを裏付ける様に、近年自生地のユリが 種子を付けている光景は、とても少なくなりました。虫が回復して来る迄、当分の間 人工授粉に頼るしか有りません。