遅咲きのヤマユリ

遅咲きのヤマユリが 7月20日から開花し始めました。早咲き,中咲き,遅咲きと、耐暑性を持ったヤマユリは 3つのグループが有りますが、それぞれのグループは 元は各1株から 木子で増えた集団です。ですから それぞれのグループは、元の親株の特徴を引き継いでいます。早咲きの株の特徴は、葉が幅広で 葉の色が 僅かに黄色みを帯びていて、木子は少ししか作りません。中咲きの株の特徴は、花弁の中央に赤い帯が現れるベニスジ系で、耐暑性も強く 木子を沢山作ります。遅咲きの株の特徴は、蕾の形が独特で 膨らんだ時に 先端が尖らずに膨らみが有ります。花の咲く株の数は、この遅咲きが最も多く 繁殖力が最も高い株です。これ等の各グループの特徴は、花の咲く時期や耐暑性とは無関係で、偶々この組み合わせになったのだと思います。この3つのグループとは別に、中咲きの ベニスジ系で 耐暑性の弱い系統の物が、一昨年と去年に花を咲かせてから枯れていたのですが、今年は現れませんでした。多分暑さで消えてしまったのでしょう。この他にも耐暑性が弱く、7月に枯れ始める株が見られますが、いずれは消えてしまうでしょう。この遅咲きの花には、先に採取しておいた 早咲きと中咲きの株の花粉を受粉しました。またこの遅咲きの花粉は、来年の早咲きの花に受粉する為に 冷凍保存します。

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遅咲きの最初の花と蕾です。

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これ等の耐暑性を持っているヤマユリでも、今後の気候の温暖化に耐えられると言う保証は有りません。ですからこれ等の耐暑性を持った株同士を交配して、更に強い耐暑性を持った株を、出来るだけ早く作り出さないとなりません。ユリは 幼苗の方が高温には弱いので、大きな株が消えた時には 既に幼苗は無くなっています。この現象は 大きい株が咲いているのを見て、安心して 事前に中々気づき難い為、分かった時には 手遅れになり易いのです。

 

このヤマユリの栽培では、次の2つの注目すべき特徴が有ります。

驚異的な増殖力

今回の写真は 全て遅咲きのヤマユリです。この遅咲きのヤマユリは、繁殖力が最も強いものです。その元の株は 4年前に見つけた 耐暑性の強そうな 葉が7,8枚付いた小さな1本の実生株で、この集団は その株から始まっています。その株は 日陰に有った鉢に生えていたのですが、日当たりの良い棚の上に移すと 翌年からとても良く伸びて、葉も夏になっても枯れずに 10月迄しっかりと付けていました。その為 成長がとても早く 木子も大きいものを沢山作りました。それ等の大きい木子は 新しい鉢に植え付けると、すぐに大きな株になります。それでこの様な短期間に こんな大きな集団になったのです。ただ不思議な事に、去年は 花を咲かせる筈の大きさになっても、1輪も花を付けませんでした。それが今年は 大きな株が 数輪の花を付けただけでなく、小さな株にも1輪づつ花を付けています。木子から出来た集団は、何等かの方法で親株と連動するのでしょうか。これに似たヤマユリの動きは、前にも一度見た事が有りました。それは大きな鉢の中央に植え付けた株が、毎年同じ方向に少しずつ移動するのですが、その周りに出来た木子も同じ方向に移動する株が最も多く、反対方向に移動する木子は1本も有りませんでした。

この様に この遅咲きの株は、ヤマユリとしてはとても強い繁殖力を持っています。この強い繁殖力は 耐暑性の強さと地中の微生物との相性の良さによるものと思われます。ただユリとしては とても強い繁殖力なのですが、穀類や芋類等の栽培作物と比べれば、まだまだ生産性は低い様です。でも 改良せずに このまま野生の形質を残すのであれば、この辺りの繁殖力が限界かも知れません。

鉢植えのヤマユリ

我が家には 早咲き,中咲き,遅咲きのヤマユリが有りますが、全てプラスチックの鉢で栽培しています。それ等のユリが大きくなると 鉢が小さく見えて来ます。私はユリを鉢に一度植え付けると、鉢が壊れない限り 植え替えはしません。最初に強い耐暑性を見つけた早咲きの株は、鉢植えしてから もう10年以上経っていますが、毎年元気に4,5輪の花を咲かせています。小さめの鉢が余っていると それも使いますので、その場合 ユリが大きくなると ユリの大きさに比べて、鉢が余計に小さく見えますが、でもユリの成長には それほど影響は無い様です。そのプラスチックの鉢は、ランを植える縦長の物です。そして その下半分には、切炭が縦に詰めてあり その隙間にもしっかりと炭が詰められています。その炭の上に球根が置かれ、そこに用土が 鉢の容積の3割程入れられ、更にその上に乾燥した小枝のチップが1割程の厚さに敷いて有ります。ですから一般の植物の鉢植えと比べると、いわゆる用土と呼ばれる物の量は、同じ鉢の大きさであれば 1/3程しか入っていません。しかも肥料は チップが少しずつ腐って行く以外は、一切与えていません。でも ヤマユリを栽培するには、庭に直植えするよりも この狭い鉢植えの方が 適しているのです。最近は気候の温暖化の為 見かけ無くなりましたが、以前は住宅地や山の道路脇の崖に、岩の間から生えているユリをよく見かけました。それ等の株は この鉢植えよりもずっと厳しい環境ですが、それでも良く育つほど 厳しい環境に耐える力を持った草なのです。ですから この程度の鉢植えの条件でも、耐暑性を備えていれば 全く問題なく元気に育つのです。鉢は土の上に置くと 鉢底から根を下の土に出して、そこから養分を吸収してしまいますので、スチールの棚の上に置いて有ります。こうして水遣りと草取りだけをしっかりやれば、よく育って毎年よく花を咲かせてくれます。柔らかい若い新葉には、アブラムシが付く事が有りますが、葉が固まれば 自然にいなくなりますので、敢えて消毒はしません。ユリはウイルスに感染していても、肥料さえ与えなければ 決して病気を発症して枯れる事は有りません。ユリとウイルスは、共生関係にあるのです。

では何故 こんな痩せた僅かの量の用土で、こんなに良く育つのでしょうか。それはユリの耐暑性にも有りますが、それ以上に用土と炭の中に生息する大量の微生物によるものでしょう。鉢の中のバクテリアや真菌類が活発に働き、僅かな養分でも効率的にそれをユリに供給し、木炭の層が用土のイヤジ化を防いでいるのでしょう。不思議な事に 高さ90cmも有る棚の支柱を登って、ミミズが鉢に棲みついている様です。狭い鉢でも ユリと微生物とミミズが、広い世界を築いて 活発に活動し、それがユリを元気にしているのでしょう。