ヤマユリの花の後

身近によく見かける花でも よく調べると、とても巧妙なやり方で 花を咲かせ 実を付けています。ヤマユリも花の季節がそろそろ終わりかけ、実になりかけていますので、その花と実の仕組みを紹介します。まず 一般のユリの花は、水平に咲き その躯体を大きく横に揺らせます。この様子から「ユリ」と言う名が付いたとされています。たとえ茎が横を向いたり 斜め下を向いていても、花は水平方向を向きます。これは遠くにいる虫達に 花の存在を知らせる為です。これは丁度 人が待ち合わせをする時、遠くに待ち合わせの人が見えた時、その人に向かって 手の平を広げて、大きく左右に手を振るのと同じです。やって来た虫が 花に止まり易くする為に、雌しべの先端の柱頭だけは 上を向いています。そこに虫が止まれば 体についている他の花の花粉が、上手く柱頭に付着して 他家受粉が出来ます。ユリは一般に自家受粉では 結実しないのです。例外的に 花が上を向いたり 花を揺らさないユリには、タモトユリやスカシユリが有りますが、それ等はその自生地の特殊な環境に合わせたものです。

花が終わって 花弁と雄しべが落ちると、受粉が出来ていれば 2週間ほどの間に、その子房は 必ず垂直に立ちます。たとえ茎が横や斜め下を向いていても、子房は垂直に立ちます。この向きを変えるのは、まだ子房の柔らかい時期にしか出来ませんので、こんなに急いで変えるのです。受粉が上手く出来なかった花の子房は、花後に子房は横を向いたまま 黄色くなって落ちます。ただ 受粉が上手くいって 子房が上を向いて 大きくなったからと言って、種子が出来ているとは限りません。自家受粉だったり 受精が上手く行かなかった時は、種子が稔らずシイナになっています。ところで 何故こんな苦労して子房が上を向かなくてはならないのかは、種子が稔って それを播く時に その訳が分かります。

秋に種子が稔ると 鞘は3つに裂けますが、その裂け目には種子が落ちない様に、細くて丈夫な網が付いています。強い風が吹いて その裂け目から風が吹き込んだ時だけ、種子が舞い上がって 鞘の上部から飛び出して、その強い風で 遠くまで運ばれるのです。弱い風で近くに落ちたり、鞘が上を向いていなかった為に、種子が親株の近くに落ちてしまうのを避ける為です。殆どの植物は 種子を出来るだけ遠くに播きたいのです。ユリの場合も 親株の近くは、木子と言う手段を持っていますので、近くに落ちる種子は 不要なのです。

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左側の1つ横向きの黄色の子房は、受粉しませんでした。他の3つは人工授粉したものです。