ボタンの種子の採取

8月中旬は ボタンの種子の採取時期です。ボタンの種子は 油断していると、採取時期を見逃してしまいます。

採取方法

種子の鞘が割れて 中の種子が見えて来たら、種子に白いのが混ざっていたり まだ割れていない鞘が有っても、鞘ごと茎から切り取って 室内で乾燥させます。そのまま木につけて置くと、一度に鞘が弾けずに 順次割れていき、種子を落としていきます。落ちてしまった種子は 拾い集めるのが 大変です。雨に濡れると 鞘から外れ易いので、この時期は 雨の降る前に種子の状態を確認しておき、採れそうな実は 早めに採っておきます。

種子の散布戦略

ボタンは 花が豪華な割に 原始的な植物の様です。一般的な樹木の 種子の散布戦略は、種子を親株から出来るだけ遠くに播く様にしたり、種子の保護や発芽後の苗が育ち易い環境を選んだり等、苦心してかなり複雑な生き残り戦略となっています。例えば クリは未熟な内は 周りに棘を付けて動物等に食べられる事を防ぎ、熟すと 実を動物にとって 美味しそうな物にして、雨に濡れると イガを外側に反らせて 実を濡れた地表に落とし、それを乾燥しない内に 動物に採取させて 遠くの適度な湿度の巣穴に保管させ、採取されなかった種子は 乾燥に遭って直ぐに死んでしまう様にしています。

一方 ボタンの方は かなり単純で、種子に少しの粘着物質を付けて 雨に濡れると鞘から落ちる様にしているだけで、その後の 種子や苗の保護や 動物や鳥を使って遠くに運ばせる事はしていません。ボタンは この種子の散布以外にも、原始的な生態の名残りが色々見られます。この種子の散布の仕組みを見ていると、原始的な昆虫のコウモリガと良く似ています。コウモリガは 夜中に翔びながら 空中から卵を撒き散らす産卵法を採っており、卵や幼虫を外敵から守る事はせず、卵から孵化した幼虫に 直ぐ食べ易い葉を用意したりもしません。このボタンも 他の樹木がどんどん進化して行く中で、原始的なまま取り残されて行った植物の様に思います。もし 花木として見出され 改良されていなければ、中国の奥地の山で ひっそりと生き延びて、薪木として使われていただけの植物だったのでしょう。

種播き

種子は あまり乾燥させない方が良いのですが、採り播きにすると 回数が増えて作業効率が悪いので、先に取れた分から 1週間分程まとめて 播きます。今年は 暑さが厳しいのと 病気で弱っている木が多いので、種子の採取は3株にしておきました。それでもしっかりと他家受粉してやると、250粒の種子が採れました。播き方は 普通の種子と同じですので、ここでは省略しておきます。発芽率は良い方で、7割くらいになります。発泡スチロールの箱に 30~50個纏めて播いて、2年目か3年目の秋に 鉢か箱に植え替えたり 庭に直植えます。肥料は特に不要で 小枝のチップを施して置くだけで大丈夫です。

f:id:tanemakijiisan:20230814214337j:image今年も また少し採るのが 遅れてしまいました。前日に 一時強い雨が降って、30粒以上 既に落ちていました。幸い コンクリートアスファルトの上に落ちている物が多かったので、かなり回収する事が出来ました。

f:id:tanemakijiisan:20230814214913j:image枯れ草の中に落ちた3粒の種子です。この上に 枯葉や土が被さると、12月頃に発根し 4月頃に芽を出して来ます。もしその場所が 日当たりの良い所であれば、成木に育ちます。時々 親株の近くに芽を出す苗を見かける事があります。

種播きの勧め

一般的に ボタンは買う物と決まっている様ですが、原始的植物のせいか 厄介な発芽抑制機構等は無いので、苗は素人でも 簡単に作れる樹木なのです。ただ 問題は 少し時間がかかるのと、どんな花が咲いて どんな形質の木になるのかが 分からない事です。花の咲く迄の時間は、種播きから 8年くらい掛かります。また 花の種類は分かりませんが、小さな花になる事は 何年もやっていて 1件しか有りません。逆にどんな花が咲くかの 楽しみが有ります。更に 実生の株は 接木株より丈夫な物が多く、根がシャクヤクでないので 寿命が長く 手入れが楽です。また 苗の作成や株の管理費用も 殆ど掛かりません。是非 種子を播いて 育ててみて下さい。

私はボタンの花は 綺麗で豪華な物であるとは思いますが、そこにはそれ程 興味は有りません。ボタンの 樹木としての形質に興味を持ち、長年 種子を播き続けて来たのです。その様な視点で この植物と付き合うと、原始的な樹木に見えて来るのです。