ボタンの形質の確認

去年の7月に 新しい葉を出し直し、その葉を今年の春迄保っていたボタンについて、これ迄何度かその状況を投稿して来ました。9月上旬になって やっと その株の形質が確定しました。結論から先に言うと、異常な現象は起きていたのですが、形質は通常のボタンでした。

異常な現象

普通のボタンでも 異常な時期に伐採に遭うと、その直後に出す葉は 秋になっても枯れず、そのまま冬を越して春迄 持つ事は 起こり得る様です。

他の落葉樹でも 葉が 春以外に出葉すると、秋に落葉せずに そのまま冬を越す事が有る様で、私は ウメの実生発芽苗で2度 その様な経験が有ります。いずれも 発芽抑制機構を働かなくして、9月に発芽させた苗が、葉をそのままにして 冬を越していました。この株は2年目にも 少しまだ影響が残っている様です。

強い伐採に遭うと 異常な現象を現す植物として 良く知られている物に、カイヅカイブキが有ります。カイヅカイブキは、生垣や庭木として植えられる スギの仲間の針葉樹です。針葉樹と言っても 葉はウロコ状をしているので、触れても痛くないので 生垣や庭木として使われます。この木は 太い枝を伐採する様な 強い剪定に遭うと、伐採した部位から出る枝は 勢いの強い枝になり、葉は 触ると痛い尖った “杉葉“ になってしまいます。一般にこれを「先祖返り」と呼んでいる現象です。この現象が現れるのは 強く伐採した時だけで、その枝から伸びる 次の芽は また元のウロコ状の葉に戻ります。元の太い幹を伐採して 全体的に杉葉になっても、翌年に出る枝の葉は 元のウロコ状の葉に戻り始めます。また この現象は 特定の株にだけ 現れる現象ではなく、殆どのカイヅカイブキの株が持っている形質の様です。

ボタンの今の状態

f:id:tanemakijiisan:20230908215849j:imageこのボタンは 写真の様に 葉がかなり傷んでいて、この状態では 冬を越す事は全く考えられません。今残っている葉は 少し遅くはなりますが、10月には 枯れると思います。去年の 冬を越した時の葉は、全く傷みは見られませんでしたので、この株は 普通のボタンに戻ったものと判断出来ます。8月中に葉が落ちて、9月上旬になっても 花芽が動き出していないので、寒牡丹に使う 二季性ボタンでも無い様です。

実生ボタンの野性株探し

そもそも 私がボタンの種子を播く様になったキッカケは、次の様な事からです。60年近く前に 著名な学者が監修した 立派な園芸書の ボタンの項に、「ボタンは 種子を播くと、小さい一重の花の 野性の株になる。だからボタンは 接木でしか増やさない。」と書かれていました。私は これを読んで 「こんな簡単に 野性のボタンの木が作れるんだ」と驚いて、直ぐに種子を採取して 播いてみました。それから 8年から10年経って 次々と花が咲きましたが、残念ながら どれも立派な八重の大きな花が咲いて、野性のボタンは1株も現れませんでした。それ以来 何世代にも亘って 種子を播き続けていますが、今だに1株だけ ボタンとヤマシャクヤクの種間雑種の様な株が 現れた事は有りましたが、野性のボタンらしき物は まだ1株も現れていません。以来 私は 如何に著名な人の本でも、“適当に書いているのでは“ と 疑って読む様になりました。現実には 全ての内容を確認してから、本を書く人など 居ないのでしょう。自然科学の中で 生物学の分野では、この様に考えて 本を読むのが 正しいのかも知れません。

そんな時に この伐採直後の「落葉しない葉を持ったボタン」に出会ったので、他の植物で 同じ事例が有る事は知っていても、やはり どうしても ひいき目で “もしや野性の株では“ と見てしまいます。ボタンは 原始的な形質を持った木で、現在の前の世代は 二季性で その前の世代は 常緑性の植物だったのでは、と思っています。その二季性を飛び越えて、常緑樹が現れたのではと、強い期待を持ってしまったのは 無理からぬ事でした。

種子に秘められた形質

でも もしかしたら 全てのボタンに、伐採したら常緑性を現す形質が有るのでは無く、この株だけが持っていると言う可能性は、僅かですが残っていると思います。もしそうだとすれば この株の種子を播くと、この現象を現す株が出る確率が ずっと高くなります。また この形質は 花に現れる形質では無いので、花が咲く迄 待つ必要は有りませんので、その分早く判定が出来ます。ただ ボタンは自家受粉はしませんので、他の株の花粉を掛けてやらなくては 種子が採れません。その場合は 目的の形質が出る確率が、半分に薄まってしまいます。でも この方法しか出来ませんので、来年からはこの株だけ 種子を採取して、播いて行こうと思っています。