ヤマユリの耐暑性の遺伝的性質

一昨年 種子を播いたヤマユリの苗が、今春に芽を出して来ました。この種子は 両親が強い耐暑性を持った株で、その苗の多くが より強い耐暑性を持った株になる事を 期待していました。でも その発芽苗の現状を見ると その耐暑性は、期待した発現率とは 全くかけ離れている様に見えます。具体的に言うと 約300粒播いて 2年目に約半数が発芽し、その中で8月半ば迄 葉がしっかり緑色を保っているのは、残った株の1割程度で 全部の種子の5%程も有りませんでした。この耐暑性と言う形質は、遺伝的に子孫に簡単に引き継がれるものではなさそうです。

f:id:tanemakijiisan:20230812093931j:image8月中旬の状態です。耐暑性を選別する為に 敢えて日照時間の長い場所に置いています。上に少しだけ見えるのが、去年 種子を播いたプランターです。

栽培実験の再検討

これ迄 私はこの耐暑性は、普通に引き継がれる形質であり、両親が強い耐暑性を持っていれば、その両親の間に出来た子株は 高い確率 具体的には7割以上の確率で、その強い耐暑性を引き継ぐと思っていました。そうならば 2,3株の耐暑性の強い株を見付け出し、これらを掛け合わせて 種子を採って苗を作れば、それらの中から 耐暑性の強い株が 大量に得られると思い、栽培実験を進めていました。その栽培実験で 耐暑性を持った株の 高い発現率が確認されれば、それらの種子を直接自生地に播いて 野性のヤマユリの温暖化対策を図るつもりでしたが、それは 大いなる誤算でした。

この耐暑性の形質の 遺伝上の性質は、全くの予想外でした。これで 私の強い耐暑性を持った野性のヤマユリを増やす計画は、一からやり直しになりました。でも その手法が 否定された訳では有りません。種子を採って播く回数が1,2度で済む筈が、数世代に亘るのか 長ければ10世代以上必要になるかの問題です。ただ 1世代には 6,7年を要するので、人にとっては 一生の事業になってしまいます。でも 誰かが今始めておかないと、今の温暖化に 手遅れになってしまいます。私は とんでもない事を始めてしまった様です。私には当然その様な長い時間は有りませんので、現物の株とその資料を 次世代の研究者に引き継ぐ事しか出来ません。

耐暑性の発現率

このヤマユリの耐暑性の形質は、普段でも 極僅かですが 必ず発現する形質の様です。でも この耐暑性さえ具えていれば、生き残れる訳では有りません。他の色々な条件が合わないと、ヤマユリは大きな株に育ちません。その強い耐暑性を持った株が 僅かに現れても、それらの株は 野生状態では直ぐに消えているのです。野生でも沢山耐暑性を持った株が有れば、それらの内いくつかの株が種子を作って 生き残れる可能性が出て来ます。この様に温暖化を克服するには、強い耐暑性を持った株が沢山必要なのです。ですから 強い耐暑性を持った株同士の掛け合わせを 何世代繰り返せば、耐暑性の強い株の発現率が 高くなって来るのかが とても重要なのです。自然の変化の気候の温暖化であれば 野性のヤマユリは、この程度の発現率でも 対応出来るのかも知れません。でも 今の様な 人による急速な温暖化では、人が交配をやっても 間に合うかどうか分かりません。この夏の状況を見れば、もう一刻の猶予も無いと分かります。

差し当たり 去年も耐暑性の強い株同士を掛け合わせた種子を播いておきましたので、それを使って来年も 耐暑性の強い株の発現率を 確認してみます。更に今年も また同じ交配の種子を播いてみるつもりです。これを3年連続して確認すれば、この耐暑性が本当にその様な遺伝的性質を持ったものかどうか 分かると思います。

他のユリでは この耐暑性の形質は、どの様な遺伝的な性質を持っているのかも 気になります。

耐暑性の評価方法に対する考察

この耐暑性が遺伝し難い形質であると言う結果について、もしかしてその評価方法に問題があるので、その様な意外な結果が出たのかも知れません。今の評価方法は 親株と幼苗を同じ条件で、耐暑性の評価をしています。もしかしたら 幼苗の時は耐暑性が弱くても、大きな株になれば 強い耐暑性を持つ様になるのかも知れません。具体的には 苗床を日照時間が2,3時間の場所に置いて、茎立ちして本葉が10枚以上の株になったら、日照時間が7,8時間以上の場所に移して、それらの耐暑性の評価を行う方法です。この評価方法にすれば、強い耐暑性を持った両親から作られた株は、幼苗の時より遥かに高い確率で 強い耐暑性を持った株が 出て来るかも知れません。

ではこの場合 今残っている緑色の1枚葉の株は、どう評価すれば良いのでしょうか。幼苗の時から 強い耐暑性を現しているので、もしかしたら “超耐暑性“ を持った株とでも評価されるのでしょうか。

今後この評価方法の問題点も考えて、栽培実験を進めて行こうと思っています。