ギョウジャニンニクの暖地における栽培法

6月上旬に ギョウジャニンニクの種子が、殻を破って中の黒い粒が見える様になって来ました。このままにしておくと 熟したものから落ちてしまうので、茎に付けて刈り取り 室内で花瓶に差して 追熟させます。今年は 当地で実生で育てた株が 本格的に実を付ける様になり、8本の房が出来 190粒程の種子が採れました。

このギョウジャニンニクは、北海道,東北,中部地方の寒冷地の山中に自生する山菜です。現在では 栽培した物も沢山出回っていますが、まだ山取りの方も多い様で、熊に出逢うのを覚悟してでも採りたい程 魅力の有る山菜だそうです。でも私が栽培を始めたのは、山菜として興味が有った訳では無く、寒冷地の山野草が 温暖な平地でも育てられるかを 調べたかったからです。従来の常識では ギョウジャニンニクは、寒冷地でないと栽培出来ないと思われていました。その為 産地に近い地域でないと、消費者に余り馴染みの有る山菜では有りません。でも 実際に 温暖な当地で 色々と工夫して栽培してみると、何とか栽培は出来る事が分かりました。ただ 種子や苗の供給を 寒冷地に頼っていては、暖地では 競争力の有る良い品質の物は作れない事も分かりました。でも 今年 その懸案だった種子の収穫や生育状況を確認出来た事から、温暖な湘南地域でも 良い品質の物の栽培は 十分可能で有り、寧ろ温暖な地域の方が 栽培には有利である事も分かりました。そこで今回 その暖地における栽培法について 詳しく説明します。

・培地

畑や里山に直接植え付けるのでは無く、発泡スチロールの箱を使います。寒冷地の山野草は、これ迄の経験から この発泡スチロールの容器で栽培すると、暖地でも良く育つ事が分かっていました。一般の植物でも 発泡スチロールの箱で栽培出来ますが、根が発泡スチロールを突き抜けて 外に根付いてしまうのが多く、敢えて発泡スチロールを使う必要性は有りません。

ギョウジャニンニクに使う箱は、深さ20cm程で 側面の底部に、水抜き穴を数箇所開けておきます。底に木炭を1~2cmの厚さに敷き詰め、その上に鹿沼土を薄く敷いて 水捌けを良くし、その上に里山の土か種播き用土を10cm程入れた培地にします。後の写真を参照して下さい。

・施肥

肥料は何も与えません。私の所では 10年以上になりますが、まだ一度も施肥はしていません。その代わり 培地の乾燥防止を兼ねて、表面に 十分乾燥させて作った小枝のチップを、1cm程の厚さに敷いて置きます。それが少しづつ腐って 肥料分になっている様です。ですから減った分を毎年補充しておきます。

・消毒、除草

ギョウジャニンニクは 耐病性が強いので、特に消毒した経験は有りません。雑草等が入り込んで来たら、大きくならない内に引き抜きます。小枝のチップがしっかり敷いてあれば、引き抜きが容易に出来ます。

・水遣り

葉が出てから枯れるまで、天気の良い日は 1日1回 水遣りをします。

・設置場所

1日2時間程の直射日光が当たる、風通しの良い所に置きます。

・植え替え

実生2年目の秋に 苗を定植した後は、収穫する迄 植え替えは 行いません。葉だけを収穫するのであれば、10年以上そのままでも 嫌地は起こしません。ただ 葉の収穫は 隔年になります。株が増えて 混み合って来たら、小さい株を 別の箱に移します。

・栽培期間

以上の様に このギョウジャニンニクの栽培法は、栽培に手間と費用があまり掛からないのは良いのですが、一般の野菜と比べて 収穫迄5,6年と、とても長い時間が掛るのが欠点です。でもこれは 寒冷地や山取りでも同じ事です。

・苗作り

苗作りで使う種子は、寒冷地で採れたものを 取り寄せて使ってはいけません。品種ではなく 必ず暖地で咲いた花から出来た種子でなくてはいけません。寒冷地で採れた種子から作った株は、暖地に適した株にはならないのです。その理由は 後の「ギョウジャニンニクの持つ特殊な能力」の項で詳しく説明します。

ギョウジャニンニクの増え方は、種子による方法とニンニクの様に 株が分球する方法の他に、長い根の途中に 子株を発生させると言う、他の植物には余り見られない 珍しい増殖法も持っています。何れの方法でも 苗を作る事は可能ですが、最初は必ず暖地で採れた種子で苗を作って下さい。

増殖用の種子採り

実生で5,6年もすると 株が大きくなり、花を咲かせる様になります。2回目以降の花は 20~30cmの長さの穂を出した 立派な花を咲かせます。花は何も手を掛けなくても、種子が良く結実します。6月に入って 実の殻が 2,3粒割れて来たら、花の茎の根本から切り取って、室内で花瓶に差して追熟させます。追熟が終わったら 実を採取します。種子採り用の株は、毎年必要な種子が採れるだけの株を確保し、収穫用とは別に栽培します。

ギョウジャニンニクの持つ特殊な能力

寒冷地で作られた市販の苗を、暖地で育てて花を咲かせて 受粉すると、種子は殆ど出来ません。他家受粉で 人工授粉してやっても、やはり実は採れません。ただ 全く種子が出来ない訳では無く、注意深く 他家受粉で人工授粉すれば、僅かに種子が採れます。1本の房に 運が良ければ、2,3粒出来る事が有ります。不思議な事に その僅かに採れた種子を播くと、育った株の殆どは 明らかに暖地に適した形質を備えた株になるのです。つまりギョウジャニンニクは、受粉して受精した直後に 出来た細胞が その環境に合った形質を持っているか判断し、その環境に適した形質を持つ種子だけを育てて、その他は種子に育てないのです。普通の植物は 環境に関係無く 全ての種子を育てて、出来た種子が生育する過程で 環境に合っているかを調べ、合わない株は 枯らしているのです。それは 役に立たない種子を育てる 無駄な労力を費やしているのです。この環境に合った株の現れる確率は、一般の植物もギョウジャニンニクも ほぼ同じくらいで、多分 0.1~1%程度でしょう。ですからギョウジャニンニクは、種子を育てる労力を 一般の植物に比べ 百分の1から千分の1にしているのです。これは栽培者にとっても、無駄な苗を育てるコストが省けて とても役立ちます。ギョウジャニンニクは、まだ殆ど知られていませんが この様な優れた能力を持っているのです。この様な能力を持った植物は、他にはまだ聞いた事が有りません。

この様な理由で 最初は大変ですが、苦労してでも 暖地で種子を採る必要が有るのです。

この暖地に適した株は、寒冷地で採れた株に比べて 次の様な違いが有ります。

・葉の面積が 2倍程になる。

・生育期間が 1ヶ月程長い。従って 生育年数も その分短くなる。

・種子が良く採れる。人工授粉等の手を掛ける必要は無い。

味と成分については、違いが有るか まだ確認出来ていません。

 

f:id:tanemakijiisan:20230619233815j:image採取して 室内で花瓶に差した種子です。

f:id:tanemakijiisan:20230619234045j:image培地と播き床の構造です。一番下に木炭を敷いて、その上に鹿沼土を薄く敷いて、その上に種播き用土を入れた培地です。上の白い紙の上に有るのが、今年採れた190程の種子です。種子は2箱に分けて播きます。発芽率は 7割程になると思います。種子を播いた後は 小枝のチップをかけて、来春までそのまま待ちます。