ウメの種子の発芽抑制機構

今年もウメが発芽して来る時期となりました。ウメの種子の持つ発芽抑制の仕組みを解明しようと、毎年 前年に色々組み込んでおいた実験条件の結果が判明する時です。今回は予想した現象が 僅かしか出ず、残念ながら その仕組みを証明出来るものでは有りませんでした。

去年迄に判明している発芽抑制作用

・種子1個当たりの用土が、直径と高さが 15cmの鉢の容量以上の用土に播かないと 発芽出来ない。畑に播いても 種子1個当たりの用土の容量が、それ以上でないと 同様の結果になる。

・少ない容量の用土に播いた種子が死ぬ状況は、晩秋に殻を割って発根する前に 既に死んでいる。

・収穫後の種子を 4℃程度の低温で 纏めて秋まで保存しておくと、一部は夏の内に殻を割って発根し、残りの種子は 秋迄死なない。それを秋に纏めて播くと、発根した一部の種子は 晩秋に発芽して冬を越し、残りの種子は 纏まりの周辺の一部が発芽する。

過去の実験から推察した発芽抑制の仕組み

種子が暑い夏の内に 水溶性の発芽抑制物質を出して、秋に種子が発芽準備の為 水分を吸収する時、用土の容量が小さいと その濃度が高まり、その高濃度の物質を吸収して 種子が死んでしまうと推察した。種子の1個当たりの用土の容量が大きいと、発芽抑制物質の濃度が低くなり 種子は死なない。

今回試みた実験の内容とその目的

・種子の内側の薄皮を傷付けない様に 外側の殻を割って、内側の中身だけを 纏めて播いてみる。

 発芽抑制物質が 種子の内部か 周りの殻の何方から出ているのか調べる。

・割った外側の殻を、数年前に播いて 元気に育っている鉢植えのウメの株の根元に撒いてみる。

 発芽抑制物質が もし殻から出ているとしたら、それは生育したウメの株にも影響するのか調べる。

・直径と高さが 12cmと8cmの鉢に 殻を割っていない種子を 1個づつ播いて、1日1回 の水をたっぷり 8月末迄撒いてみる。

 発芽抑制物質が水溶性か、それは大量の水で流し 取り除けるか調べる。

この春に出た 実験結果

・殻を割って中身を播いたものは、30個づつ 3つのプランターに播いたところ、2本が9月に発芽し 2本が3月中旬に発芽し、他は発芽しなかった。普通に播くと 9月に発芽する事はあり得ず、纏めて播いた種子は 春に1本も発芽する事は無い。しかしこの発芽数では 発芽抑制物質は 何処から発生しているのかは 断定出来ない。殻の無い種子は 真菌類に食べられた事も考えられる。

・割った殻を根元に撒いた鉢植えの梅ウメは、去年の秋迄は変化は無かった。しかし この株のこの春の芽出しの状態は、周りのプランターに植えた数本の同時期の株や 前年の状態と比較すると、明らかに弱っていて 新芽の伸びが著しく悪い。この株と同じ鉢に混植してあるチャノキは、全く弱った様子は見られなかった。結果としては 種子の殻は、ウメの株の芽出しと成長を阻害する物質を出していると考えられる。ただ それが種子の発芽抑制の原因とは断定出来ない。

f:id:tanemakijiisan:20230330172430j:image殻を撒いた株、左の株は チャノキ。4月中旬になって漸く回復して来た。

f:id:tanemakijiisan:20230330172613j:image殻を撒いていない 近くの同じ大きさの株

・実験した鉢の個数は 直径と高さが12cmのものが14個、8cmのものが10個であったが、3月に発芽したのは 12cmのものが 3株、8cmのものが1株だった。4月に発芽したのは 12cmのものが 3株、8cmのものが 3株でした。過去の何度かの実験では、何れの大きさの鉢も 1度も発芽した事は無かったので、発芽抑制物質が水溶性で 多量の水撒きで流し去られた効果が、強く出ていると思われる結果ではあった。ただ 水撒きの期間を もう1ヶ月続けていれば、さらにハッキリした結果が得られたかも知れない。

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今回の実験の結果

残念ながら 事前に推察した内容を 断定する結果は得られませんでした。でも 推察の内容を否定するものでは無く、さらにその推察した内容を強く窺わせる結果だったと思います。ウメの発芽抑制の仕組みを究明するには、無菌状態等のもっと厳格な条件設定が必要なのかも知れません。実験の内容を色々変えて、もう暫く継続してみようと思っています。