まぼろしのヤマシャクヤク

ヤマシャクヤクの芽出しが終わって、蕾が膨らんで来る頃になりました。でも 今年の我が家の庭には ヤマシャクヤクの姿は有りません。理由は デワノヤマシャクヤクと混同しない様に、苗から花の咲く株まで 全てのヤマシャクヤクを、知り合いの園芸業者に引き取ってもらったからです。セイタカヤマシャクヤクは デワノヤマシャクヤクと区別し易いので、少しだけ残してあります。そして今やっとデワノヤマシャクヤクの発芽が終わりました。このデワノヤマシャクヤクは、まだ良く分かっていない まぼろしヤマシャクヤクです。現在調査中で 少しづつ分かって来ていますので、その途中経過を投稿します。

ヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤク

セイタカヤマシャクヤクは、通称「ベニバナヤマシャクヤク」と呼ばれている事が多く、名前の通り 草丈が ヤマシャクヤクの2倍程度有ります。種子を播くと ヤマシャクヤクは 殆どが翌春に発芽するのに対し、セイタカヤマシャクヤクは 殆どが2年目の春に発芽します。成長した株の芽出しと開花についても、セイタカヤマシャクヤクヤマシャクヤクより1ヶ月遅れています。その他 葉や花や根が違っていますが、その詳しい解説は 以前に投稿してありますので、詳しく知りたい方は それを参照して下さい。セイタカヤマシャクヤクは 花の色が赤ですので、「ベニバナヤマシャクヤク」と呼ばれて、ヤマシャクヤクの変種か亜種の様に扱われていますが、明らかにヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤクは 異なる別種です。この形質の違いは、一般にはそれぞれの自生地での状態を比べますが、それには環境の違いによるものが含まれていて 適切な方法ではありません。出来る限り環境条件を揃えて比較すべきなのです。それには各地の個体を一箇所の標準地の集めて、種播きから種子の採取までを 比較すべきなのです。こうすれば セイタカヤマシャクヤクも明らかに ヤマシャクヤクとは別種と判定出来るでしょう。

デワノヤマシャクヤクは中間種か種間雑種か

ヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤクの間に、その両者のいずれとも異なる 中間のヤマシャクヤクが存在します。それは山形県でその存在が確認されていますので、私は勝手に「デワノヤマシャクヤク」と仮称で呼ばせて貰っています。そこで この植物は一体何者なのかを調べなくてはなりません。それには種播きから種子の採取迄の世代を、2度繰り返して調べる必要が有ります。山形の専門家に その点を問い合わせたところ、「当地では それは難しい」と言われましたので、ではそれを私にやらせて貰えませんかと お願いしたところ、それをやらせて貰える事になりました。デワノヤマシャクヤクには 花の色が、赤と白が有るそうです。なので ベニバナヤマシャクヤクと言うと、このデワノヤマシャクヤクの赤花も該当してしまいます。ですから ベニバナヤマシャクヤクの名称は 適切では有りません。セイタカヤマシャクヤクに統一すべきです。

この調査の具体的方法は、この種子を播いて 其れ等の個体の性質とそのバラツキを調べ、更にその次の世代の形質を調べて 世代間で 其れ等の形質の変化が有るか調べます。その違いが無ければ 種として固定されていて、別種か亜種等の中間種と考えられます。また 色々と変化して ヤマシャクヤクやセイタカヤマシャクヤクの形質が、バラバラに入っていたりすれば、種として固定されていないので、誰かが意識的に交配して創り出した 種間雑種の可能性が高くなります。私は このデワノヤマシャクヤクは、セイタカヤマシャクヤクから ヤマシャクヤクへと派生して行く過程に存在する 中間種であろうと考えています。

これと同じ様な事が ユリの世界でも有りました。伊豆半島の南部で、ヤマユリとササユリの中間のユリが見られました。清水基夫氏は これを「イズユリ」と呼んで 種として扱われておられました。私も気になって 何度も現地を調べまわったところ、ヤマユリにとても近い形質の個体から、ササユリにとても近い形質の個体まで、色々な形質の個体が 同じ地域に沢山混在していました。この地域では ササユリの遅い開花とヤマユリの早い開花の時期が重なる事も有りますので、自然の種間雑種が存在していても不思議では有りません。ですから まだ種として形質の固定していない 種間雑種だと思われました。その後暫くして 再度現地を調査してみたところ、それらは全て猪に食べられて 消滅していました。正に「まぼろしのイズユリ」になっていました。この種間雑種は 浜松でも見られるそうです。

デワノヤマシャクヤク種播き

山形から送られてきた種子を播いたのですが、翌春に発芽したのは 2株だけでした。そこで もう一度種子を送って頂いて 播いたのですが、やはり発芽率がとても低いものでした。2年目の株も 1株だけになり、それも1枚葉の状態で 生育が とても遅いものでした。その後様子を見ていると、10個以上播いた箱に 1株だけ発芽して来たのが、3株有りました。かと思うと 26個播いた箱に、3年目になって 端の方に 大小纏まって 14株発芽して来ました。この纏まって生えた理由は、種子の状態がとても悪かったので もう出て来ないと決め付けて、捨てるつもりで 端の方に纏めて埋めて置いたからです。

これらの様子から デワノヤマシャクヤクの全体的な発芽と成長をみると、1年目や2年目も有りますが 3年目に発芽する種子が多く、発芽後の生育の速さは ヤマシャクヤクの半分程の速さになっています。しかし一方では 種子の状態が悪くても、長い間生き抜く とても粘り強い形質を持っている様です。

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3年目に 14株発芽した状態です。