ヤマシャクヤクの種子

7月に入るとヤマシャクヤクの葉が弱り始めて、種子も熟して鞘が割れ始めますので、その種子の様子を紹介します。

鮮やかな種子の姿

ヤマシャクヤクは花が咲いた後に、2〜4個の鞘を付けます。その数はその株の前年の葉の状態によって決まります。鞘の中の種子の数は受粉の状況により決まりますが、自家受粉でも結実する様です。その1鞘の種子の数は、2〜8個ぐらいです。鞘の外側の色は薄黄緑ですが、鞘が割れるとその内壁と種子にならなかった沢山の小さいシイナの、明るい鮮やかな赤がとても良く目立ちます。その赤の中に大豆くらいの紫紺の種子が入っています。鮮やかな赤の中の濃い紫紺ですからとても目立ちます。これを初めて見たときはかなり驚きましたが、その理由は直ぐに判りました。この赤の中の黒い種子の組み合わせは、庭の雑草の中のタンキリマメやサンショウ等にも見られます。これ等は小鳥に実を食べさせて、種子を広くばら撒く戦略を採っている植物です。赤は遠くにいる小鳥に気づかせる為、黒は寄って来た小鳥の食欲をそそって、それを食べさせる為でしょう。これを裏付ける様に、鞘が開き切っても種子は鞘の縁に付いて、下には落ちません。小鳥とっては下に落ちた実を啄むのは、動物に襲われるとても危険な状態なのです。

種子の構造

種子の紫紺の薄い皮の内側は、薄い層の紫紺の果汁を含んだ液果になっています。構造はザクロの果実に良く似ています。この紫紺の果汁には、ヤマブドウ等にも有るポリフェノールが含まれている様です。小鳥にとっては大事な栄養素なのでしょう。この果肉にはその内側にある殻から生えている毛羽が有り、小鳥の消化管では果肉は綺麗に取り除かれますが、食べられずに下に落ちた実はまったく果肉は取れません。これはこの果肉には小鳥の栄養分の他に、種子を発芽させない発芽抑制効果を持たせているのでしょう。サンショウも同様な仕組みを備えています。これは親株のすぐ近くに生えられては、競争相手となり共倒れしかねないので、それを防ぐ為なのでしょう。

種播きと栽培法

この種子を蒔く時は、この果肉を綺麗に取り除いてから蒔きます。その取り除き方は、まず果汁が飛び散らない様にティッシュペーパーに包んで皮をむいて、次にカッターナイフで髭を剃る様に毛羽を綺麗に取り除きます。それを1日間水に漬けてから蒔きます。蒔き床は深さ10㎝程の発泡スチロールの箱に、下に木炭を薄く敷き詰めた物です。時期は採取したらすぐ蒔く「採り蒔き」です。株が少し大きくなったら、同じ構造の大きい箱に植え替えます。それを1日3時間ほど直射日光の当たる場所に置きます。箱の表面に充分に乾燥させた小枝のチップを敷いてやれば、後は水遣りだけで施肥と植え替えは不要です。

ヤマシャクヤクの仲間について

ヤマシャクヤクの仲間で、別種のセイタカヤマシャクヤクが有ります。花が赤いのでベニバナヤマシャクヤクと良く間違われます。一般にベニバナヤマシャクヤクと紹介されているものの殆どが、このセイタカヤマシャクヤクです。セイタカヤマシャクヤクは、9月に種子が熟します。種子の外観や構造は、ヤマシャクヤクと同じです。葉は10月下旬まで残っています。種子の蒔き方はヤマシャクヤクと同じですが、ヤマシャクヤクと違って翌年には発芽しません。発芽は翌々年になります。セイタカヤマシャクヤクの栽培場所は、日照時間がヤマシャクヤクより3時間ほど多い、6〜7時間の所にします。植える箱はヤマシャクヤクより10㎝ほど深くします。

ちなみにセイタカヤマシャクヤクヤマシャクヤクの中間に、草姿と発芽期間はヤマシャクヤクと同じで、葉の活動期間と花の色はセイタカヤマシャクヤクと同じのものが有り、これがベニバナヤマシャクヤクです。

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次回は遅咲きのヤマユリの開花を紹介します。