樹木には 動物の様な “寿命“ と言う概念は有りません。ですから 樹木には 歳をとったから枯れると言う現象は無いのです。樹木の枯れる原因は、病気や虫や動物による食害や風や洪水による倒壊や折損に自然火災や干ばつ等です。そして それ等の原因から起こる 材の内部の腐朽によって、外観が健全に見えても 突然 大木が崩壊する事もあるのです。我が家の庭に、この木が自然に枯れて行く過程を見られる木が有りますので、それを紹介します。
その木は 十数年前に 山に自生していた木から枝を採取して、挿し木をして 庭に植えた アシガラサンショウの木です。サンショウは 材が朽ち易く 根張りが浅く 乾燥に弱いので、大木にはなれず 当然古木も存在しません。ですから サンショウは 自然の木の一生を、一人の人間が観察出来る 数少ない樹木なのです。因みにこの枝を採取した親株も、太さ7,8cmでしたが 採取の数年後の干ばつで 枯れてしまいました。
そこでこの株には 根元に厚く枯葉を敷き詰め、乾燥に注意して育てていましたが、4m近く迄伸びた時に 台風の強風で、木が45度程傾いてしまいました。その際 傾いた方向に直角方向の両側の2方向の根だけが残り、傾いた方向とその反対側の根は 折れたりちぎれたりして 枯れてしまいました。そっと木を起こして アンカーボルトとワイヤーで支えておいたところ、かなり弱っていた木も 数年で勢いは回復して元気になりました。でも 枯れた太い根から腐朽が進み 主根が2方向だけとなったので、幹が地際で二股になり その裂け目から幹の芯部が腐り、中心部の空洞化が 上の方へと進んでいます。
この空洞は 反対側迄抜けて、二股になっています。空洞の上端に見える細い枝は、空洞の深さを測るために 下から差し込んだ小枝の端です。幹の外観は 全く健全に見えても、差し込んだ小枝の長さは 約30cm有りますので、外から見える空洞の口の上から 28cm迄 中心部の腐朽が進んでいる事になります。
巻き尺に沿って置いてあるのが、深さを測った小枝です。巻き尺の50cmの位置が、現在の空洞の上端になります。巻き尺の数値は 地表からの高さです。木の手前の斜め右上に伸びている小さな木が、この株のヒコバエで 3年生のものです。サンショウは 通常ヒコバエを出さないので とても珍しい現象で、親株が枯れた時は この株が 次の世代の主幹になるのです。
樹木は 内部から腐って枯れる場合は、中心部から外に向かって腐りが進む速さが、幹の表皮の下の形成層の太る速さを超えると、だんだん健全な幹が薄くなって行き、遂には木を支えられず 木は倒れて枯れてしまうのです。サンショウは 材の腐る速さが早く、木が太くなると 幹の太る速さは遅くなり、幹の中に腐れが有ると 腐る速さの方が 太る速さより速いので、木は直ぐに枯れてしまうのです。サンショウの材は 良くスリコギ棒に使われ、乾燥さした材には 油脂分が含まれているので、硬く腐り難いと思われがちですですが、実際は柔らかく野外の材は 腐り易いのです。太い枝が枯れた場合は 直ぐに幹の深部へ腐朽が進みますので、剪定には十分気をつけなければなりません。
樹木の手入れの方法としては、腐り始めた部分を見付けたら、直ぐに腐った部分を削り取って 木材用の接着剤等の樹脂を塗って、腐朽の進行を遅らせます。でも私は 特別な手入れはせず、自然のままの変化を観察しています。
このサンショウの木は 今は5mを超える高さですが、数年もすると 中心部は 腐りが 地表から1m程上まで進み、幹回りの方は 周辺まで腐って来て、木は枯れると思います。でも 枯れる直前まで、木は上へ伸びて行くと思います。
これが樹木の一生の姿なのです。でも この木は枯れても、ヒコバエに しっかりと引き継がれます。