サンショウの形態

果実の大きさ

野生のサンショウの実は、全国的にほぼ同じ大きさで、株による個体差も殆んど有りません。園芸種では 小粒の「美山山椒」や、大粒の「ぶどう山椒」と「朝倉山椒」が有ります。でも それ等の果実の大きさの形質は、野生種の中には広がらない様です。朝倉山椒と普通のサンショウの自然交配種と思われる株を、住宅地の中で 時折見掛けるのですが、実の大きさは やはり普通の大きさの株おばかりです。

園芸種

小粒のサンショウで有名なのが 「美山山椒」ですが、同じ呼び方で、高山植物で 「深山」から来る ミヤマサンショウが有ります。でも これはサンショウの仲間ですが、サンショウとは別種です。美山山椒の方は サンショウの種で、園芸種の品種名です。京都府美山地区で 小粒のサンショウを作り出し、それを地域の特産品として全国に売り出して、それで有名になったのでしょう。ブドウサンショウの方も園芸種のサンショウで、大き目の実を葡萄の房の様に沢山付けるので、この名で呼ばれる様です。朝倉山椒も園芸種のサンショウで、兵庫県八鹿市の朝倉地区で作り出された品種で、棘が無くて 収穫し易いので 各地に広がりました。

果実の大きさ

野生のサンショウは、葉や棘の大小は有りますが、果実の粒の大きさは殆んど同じです。その理由は 多分それを餌にしている小鳥と関連するからだと思います。植物側のサンショウの都合だけでは、果実の大きさは 変えられないのでしょう。果実の黒い種子の内側に有る半透明の硬い殻の強さが、強過ぎても弱過ぎても サンショウと小鳥の利害関係を崩してしまいます。殻が硬いと 食べた小鳥の胃の中で 殻が割れない為に 小鳥の栄養にはならず、小鳥は その実を食べるのをやめてしまいます。逆に殻が弱いと サンショウの種子は全部殻が割れて 消化されてしまい、サンショウは 苗を増やせずに 消滅してしまいます。ですから 小鳥の消化管で、5〜1%の消化残りが出る様な 殻の硬さが 両者にとって 都合が良いのです。この殻の硬さは、長い年数を掛けて サンショウと小鳥の作り出した、とても微妙な硬さなのです。工学的にみると 実の粒の大小は、たとえ僅かでも 殻の丈夫さに 大きく影響します。その為に粒の大きさだけは、ほぼ同じになっているのだろうと思います。小さい殻は 厚さが薄くても丈夫で、大きい殻は 厚さを厚くしないと強さを保てません。これを裏付ける様に、50年以上 野生のサンショウを見て来て、未だに小粒や大粒のサンショウは 見た事は有りません。ちなみに 小鳥に食べられずに 親株の近くに落ちた種子は、親にとって邪魔なので 硬い殻の外側に油脂層を付け、発芽出来ずに死んでしまう様にしているのです。この様に サンショウ側としては、何としても小鳥に食べてもらわなければならない事情が有るのです。これと同じ様な関係は、亜熱帯の小島に生息する カタツムリと鳥の間にも見られます。カタツムリは サンショウと同じ様に、鳥に食べられて 僅かの生き残り個体が 別の島へと渡っている様です。カタツムリの殻の強さも、その様にして 長い時間を掛けて決まったのでしょう。

樹木の大きさ

サンショウの木は 大木になる事は有りません。サンショウの木は ある程度まで大きくなると、主に次の2つの原因で枯れています。その一つは 強い乾燥による水不足です。根が浅く水分の吸収力が弱いのでしょう。日照りが長く続くと、山中でまず先に枯れるのが サンショウです。もう一つは 風による倒木です。これもやはり根が浅く 根張りの力が弱く、背が高くなると それ程強い風でなくとも、耐えられずに倒されてしまうのです。一方 サンショウは、日陰にはとても強い形質を持っています。これ等の理由により、比較的大きなサンショウの木は、建物の影や林の中など 日照が少なくても 風が弱い場所に 良く見られるのです。

私は現在20本近くのサンショウを管理していますが、その中に2本の4mを超える大きな木が有ります。うち1本は 南北に在る2階建と3階建ての建物の間の庭に、10数年前に 小鳥が播いた種子から育った実生株です。日当たりが悪く 湿っぽい所ですが、風当たりが弱いので 大きく育った様です。もう1本は これも10数年前に 近くの山で採取した枝で 揷し木苗を作り、庭に植え付けた株です。日当たりは 日照時間が7時間以上ある場所で、風当たりは 地表3mを超えると かなり強くなります。その木が 3mを越す程に育った時、台風の風で 45度ぐらいに倒れて、根の半分くらいが ちぎれてしまいました。そこで 3本の支柱を添えて 立て直し、木の周りの地面に 厚く敷き草をして置いたところ、3年して やっと元気を取り戻しました。でも その後また台風の風で、支柱のお陰で倒れる事はなかったのですが、支柱に接する幹の樹皮の全周の半分近くが、傷んで枯れてしまいました。幹には直接支柱が当たらない様に、厚く緩衝材を入れて置いたのですが、長時間揺すられたのとサンショウの樹皮が弱い為、この一般に使われる方法は 不適切だったのでしょう。そこで今度は 支柱の代わりに、幹の1.5m程の高さの所に、ステンレスの6㎜のフックを貫通させて、それにワイヤーを掛けて支えました。取り付けて3年になりますが、痛んだ樹皮が半分以上回復して 元気を取り戻しました。かなりの強い風にも遭ったのですが、倒れる事も無く 樹皮の損傷も見られません。

サンショウを この様な特殊な状態で育てると、どこまで大きくなるのか 観察してみるつもりです。