接木の穂木と台木の相性

前に挿し木について何度か投稿した、シデコブシの接木について投稿します。

この株は 10年近く前に、花弁の数が異常に多かったので、旅行中の植木市で買い求めた物です。家に帰ってから直ぐに、庭に鉢から出して 直植えにしました。樹高は40cm弱でしたので、大きな木の陰にならない様な所に植え付けました。シデコブシは中高木で、実生株や野性株は 高さ 7,8mのこんもり茂る形になる木です。直植えしたら 直ぐにぐんぐん伸び出すだろうと思って 見ていたところ、全然元気良く伸びてくれません。逆に少し元気が無くなり、一部の枝が枯れ始めました。心配になって 2年前から 頻繁に葉と木の周りを手入れしていました。枯れてしまう事も想定して、大事な枝以外の枝を 数本採取し、挿し木をしてみました。去年は 挿し床の温度が上がり過ぎて 失敗してしまったので、今年は温度を上げ過ぎない様に注意して管理したところ、5本中1本が活着しました。親木の方も手入れが良かったせいか、少し樹勢が回復して来て 花も6輪付け、人工授粉したところ 2個の実を付けました。

成長不良の原因

シデコブシは 園芸業者の間では 花木として扱われ、厳格ではありませんが それなりの管理がされています。苗が商品として出回る物は、全て接木苗になります。台木に使われるのは 多分樹勢の強いコブシの実生か挿し木苗が使われていると思います。この場合 台木と穂木にも個体差が有り、その組み合わせに 相性が有ります。大抵の場合 そこに問題は起きないのですが、偶にその組み合わせが悪いと 成長等に影響が出て来る事が有ります。これはシデコブシに限らず 色々な花木や果樹にも、時々現れているのを見かけます。例えば 同じ品種のサクラを多数植えた場所で、隣り同士でも その株だけ花期が少しずれていたり、枝振りが違っている物を見かけます。また 根元の継いだ部分が 滑らかに成長せずに、コブ状になって その後の木の成長を阻害する事も有ります。このシデコブシの株の場合も 根元近くの継いだ部分に、大きなコブが出来ているのが見られます。

f:id:tanemakijiisan:20230728170127j:imageこのコブは 植え付けた時は 目立ちませんでしたが、木が元気を取り戻した去年辺りから 目立って来ました。やはりこのシデコブシも 台木と穂木の相性が悪かった事が原因で、成長が阻害されていたのでしょう。それを何とか克服した結果が、コブの膨らみとして現れているのでしょう。

挿し木による検証

成長不良の原因を検証する為と この木が何時枯れてもいい様に、挿し木をして置いたのです。シデコブシは 挿し木をしても活着率が低いので、挿し木には向いていません。でも 台木との相性が悪い以上、たとえ活着率が低くても 穂木本来の根を作る挿し木しか、穂木の形質を守る方法は有りません。今後この挿し木株と親木の成長度合いを比較して、この原因が 穂木と台木の相性によるものか 検証するつもりです。

断面観察による検証

樹木が枯れて その原因が不明の時は、その部分の縦横の断面を切り出して 調べる方法が有ります。ただ この方法は 直接内部を観察出来る方法ですが、木が生きている状態では使えません。枯れた状態を見て 事前に何処をどう観るか考えて、切断面が平になる様に 注意してノコギリで 木を切断します。切断後 切断面をサンドペーパーで研磨します。始めは#60から磨いて行き 最後は#240で 丁寧に仕上げます。この程度まで磨くと ノコギリによる損傷は消えて、ニスなどの表面処理をしなくても 組織の状態が詳細に観察出来ます。断面の木目や色や成長過程の傷等を観察すれば、ある程度原因も推察出来ます。

接木繁殖法の落し穴

以上の様に 接木による植物の生産法には、穂木と台木の相性の問題が有るのですが、大抵は 台木と穂木が しっかり管理されているので、あまり問題は起きていない様です。また 偶に問題が起きても、その組み合わせが原因と気付く事は無い様です。

もう一つ接木で注意しなければならない事は、台木の形質が穂木に入り込む現象が有る事です。植物学上では この様な事は起きないとなっているのですが、現実には起きているのです。通常使われている穂木と台木の組み合わせでは、それが起きないか 起きていても表現されないのでしょう。私は若い時 ウメの接木で、穂木に白加賀 台木に紅梅の八重の実生を使った時、出来た株は 果実は白加賀で 花は赤みがかった白で 樹肌は紅梅になった経験が有りました。紅梅の形質が強い台木だったので、その形質が穂木に入り込んだのでしょう。

ですから 植物学上大事な植物を保存する場合は、接木によってその形質を保存するのでは無く、挿し木や株分けか それが難しければ 組織培養を使うべきです。