ヤマブドウの小粒の実

葡萄の実で 中に種子の入っていない小さな実を、「ショットベリー」と言うそうです。ヤマブドウにも それが有る様です。私はそれを知らなかったので 以前ヤマブドウの事を書いた時、この小さい実は色付かずに落ちてしまうと書いてしまったのですが、どうやらそれは間違いで 小さいままで 色付いて熟す様です。この件について 専門家に確認したところ、「園芸種の葡萄では 樹勢の強い木に 時々現れるが、ヤマブドウでは 滅多に現れず 私は見た事は無い」と言っておられました。私も一度だけ沢山実を付けたヤマブドウを見付け、その枝を採取して来た記憶が有りますが、今思えば それは ショットベリー では無かったかと思います。当時は ショットベリーの知識は無かったので、普通の実と思い込んでしまったのでしょう。

まだ7月の上旬だと言うのに、ショットベリーがもう色付き始めました。一緒に付いている普通の実は、まだ色付いてはいません。

f:id:tanemakijiisan:20230709204712j:image7月9日のショットベリーの状態、元の方に1個だけ普通の実が見られます。

ショットベリーの役割

そもそもこのショットベリーは 何の為に出来るのでしょう。普通の実は その実を動物や鳥に食べさせて、中に入った種子を 糞と一緒に 親株から離れた場所に播いて貰っています。でも ショットベリーには、中に種子は有りません。しかし ヤマブドウは 全く意味の無い実を作っているとは思えません。ではこのショットベリーには どんな役割が有るのか 考えてみましょう。それを考える時 参考になるのが、その大きさと熟期です。熟すまで木に付いているのは、やはり小鳥に食べさせる為としか考えられません。種子を播く為で無いとしたら、小鳥を呼び寄せる為の餌なのではないでしょうか。実が小さいのと 実の付いている位置が高い事から考えると、食べるのは やはり小鳥なのでしょう。ヒヨやカラスなどの大きさの鳥には、この実の大きさでは 少し物足りません。では 何の為に小鳥を呼び寄せるのでしょう。考えられるのは、実を啄ばむついでに 枝や葉に付く虫を食べて貰う事です。虫の方が主目的なのかも知れませんが、寄って来た時に 虫を見付けられなくても、小粒の実が食べられれば 来たのが無駄になりません。

ショットベリーの熟期 

もし この推察が当たっているとしたら、これ等の虫がヤマブドウに害を与える時期に、小鳥に来て貰わなくてはなりません。普通の実が熟す時期では もう遅いのです。考えられる虫の種類としては、葉を食べる毛虫や 春に新梢が伸びた後に 突然枝が枯れる原因のシンクイムシが、夏に作られた冬芽の中に 卵を産み付けるのが、丁度この時期なのです。そこで 親の蛾がその卵を産み付ける時期に合わせて、このショットベリーを熟させていると考えると、上手く説明が付きます。

この考えは まだ仮説の段階です。これから しっかりとした検証をする必要が有ります。また まだ他に理由があるのかも知れませんので、これからも この現象を調べて行こうと思っています。

この仮説が合っているとしたら、殆どのヤマブドウが沢山のショットベリーを付ける筈ですが、そんな現象は 今迄気付きませんでした。樹勢の強い株だけが ショットベリーを作っていて、殆どの株は その様な余裕は無いのかも知れません。

専門家によると ショットベリーの作られる過程は、ある程度迄は 分かっているのですが、詳しくはまだ分かっていないそうです。

ショットベリーの利用の可能性

ショットベリーは このままでは人間にとって 何の役にも立ちませんが、その性質を上手く利用すれば 種無しのヤマブドウが作れるのではと思います。ヤマブドウは 栄養価は高いのですが、種子の占める体積の比率が高いのが 難点です。種無し葡萄の作れる品種は 限られていますが、その作り方は 花房を開花の前後 2,3回 ジベレリン溶液に浸す様です。ショットベリーを良く付ける形質を持つヤマブドウの場合は、元々種無しの実は付けるので その実を大きくするだけで良いのです。開花後の1回のジベレリン処理で済むかも知れません。やってみる価値は有る様に思います。