ヤマユリ

温暖化で消えてゆくヤマユリ

最近湘南地域では住宅地の近くや道路に面した崖地や斜面で、以前はよく見られたヤマユリの花を見かける事がほとんど無くなりました。我が家の庭で後記の特別な栽培法で栽培し、花を咲かせていた鉢植えのヤマユリも、十数年前にそれまで良く咲いていた多くの株が、ほとんど消えて無くなりました。消えていった状況は、春から元気に伸びていた株が、7月に入ると葉が黄色くなり始めて、8月になると枯れてしまい、翌年には芽を出さずに消えていく株が何株か出て、終いにはほとんどの株が同じ様な状況を経て消えてしまいました。これは最近酷くなっている温暖化の影響ではないかと思います。そのユリが消え始めた時期が、その頃熱帯夜の日数が、それまで一夏に4,5日だったものが、20~30日と増えた時期に一致している様に思います。ササユリの方が、少し先に消えて行った様に思います。ヤマユリやササユリは、温暖化にはかなり弱いのでしょう。湘南地域では、住宅地から離れた里山の雑木林の中にはまだかなり見られるヤマユリが、更に温暖化が進むといずれ消えてしまうと思います。

そんな中で我が家で、1株だけ枯れずに毎年花を咲かせているヤマユリが有りました。ヤマユリも個体によっては、温暖化に強い形質の株が有る様です。その株から種子を採取して、温暖化に強い株を増やしていければ良いのですが、ヤマユリは自家受粉しないので、何度受粉を試みても種子を着けてくれません。木子で増やしてもクローンですので、増えた事にはなりません。そんな時に2年ほど前に、何年も放置して置いたユリの鉢に、夏を過ぎても枯れない小さな茎立ちしたヤマユリがあるのを見つけました。葉の形や色からすると、明らかに今咲いている株とは別系統です。多分以前に咲いていた株の種子が散って、その中の耐暑性を持った株が育ったのでしょう。この様にしばらく眠っていた種子や一枚葉の株が再び動き出す事例は、ヤマユリやササユリには時々見られる現象なのです。その株を良く日の当たる場所に移しても、枯れる事なくとても良く育っているので、この株は耐暑性を十分持っていると思われます。安全を考えてその株を木子で増やすと、数株になりました。元の株も大きくなり、来年には花を着けそうです。そうなればやっと温暖化に強い耐暑性を持った株同士の受粉で種子が採れ、より耐暑性の強い株が大量に得られそうです。

ヤマユリは耐暑性さえ有れば、うまく育つ訳ではありません。その他の条件が上手く揃わないと,自生して増殖は出来ません。自然の状態では、今回程度の確率で耐暑性を持った株が出現しても、かなりの年数を費やさないと増える事は難しいと思います。この温暖化の速さではその様な時間的な余裕は無く、今の温暖化にはついて行けないでしょう。でも人が少しだけ選別と交配や移動の手助けをすれば、この温暖化を乗り越えられると思います。その他の条件を満たす栽培法は、後記の通り既に習得していますので、これからそれをやってみようと思っています。

 

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暑さに耐え、毎年花を咲かせているヤマユリ

 

ヤマユリの栽培法

ヤマユリやササユリはとても気難しい植物で、栽培は難しいと言われています。確かに普通の栽培植物と同じ様に扱うと、上手く育たない様です。このヤマユリやササユリを育てるには、普通の栽培植物ではやらない、3つの要点が有ります。

その要点の一つ目は、土壌です。その土壌は球根の下端を境に、上下にはっきりと土質を分ける事です。下はしっかりとした堅い状態で、根がやっと入る程度の隙間が有る石や固い粘土のようなものです。上は普通の栽培用土です。私の鉢植えの場合は、背の高い鉢を使いその下半分に岩手の切り炭を縦に詰め、その全ての隙間には炭のかけらを詰めて置きます。その堅さは、鉢を逆さにしても落ちない程度に詰めます。上半分は普通の腐葉土混じりの庭土を使います。

二つ目の要点は、施肥です。肥料分は極力抑えて、園芸店に有る肥料を加えていない栽培用土のままで良く,特に速効性の肥料は厳禁です。私の場合は、全く肥料は与えていませんが、それでも毎年良く花を咲かせています。その肥料の代わりに、庭木を手入れした時に出る細い樹木の小枝を、長さ1㎝程に刻んで、それを十分乾燥させた物を、鉢の乾燥防止も兼ねて肥料の代わりに、表面に厚さ1㎝ほど敷いて置きます。それが2,3年かけて徐々に腐っていきますので、その分補充して置きます。枯草や落ち葉は、すぐ腐ってしまうので使いません。

三つ目の要点は、移植法です。これらのユリを移植する際は、ユリの球根の下根を完全に取り除かなくてはいけません。1㎜も残してはいけません。またこの根を切除する際は、切断面の組織を傷めない様、良く切れる刃物(例えば卸したてのカッターナイフ)で、刺身を切る様に刃を滑らせながら切ります。一度彫り上げてしまった球根の下根は、残しておくと有害で何の役にも立ちません。その球根を堅い用土の上にそっと置いて、その周りと上に普通の用土を入れて移植します。用土の深さは、球根の上に球根の高さと同じぐらいとします。この移植はどの時期でも出来ますが、緑の葉の付いた茎が有る時は、茎に付いている上の根は、絶対に触ってはいけません。具体的には茎を中心に半径10㎝程の土は崩さずに、その下の球根を確認し,その球根ごとそっと掘り上げます。この場合でも、球根の下根は完全に切除します。これを堅い土壌の上にそっと置いて移植します。この様に緑の葉の有る時は手間がかかりますから、移植は茎が枯れてから行う方が、楽で安全です。

種蒔き

次にこれらのユリの種蒔きについて書きます。蒔き床の構造は先の土壌の方法と同じで、堅い用土の上に薄く土を撒いて表面を均して,その上に種子を蒔いて、そこに2,3㎝の土を被せて置きます。成長に合わせて、上の土は追加していきます。蒔く時期は、採れたらすぐに蒔く「採り蒔き」です。なおこれらのユリは遅発芽性で、翌春ではなく2年目の春に発芽して来るので、そのつもりで気長に待っていて下さい。種子の採取は、秋になってもまだしっかりと緑の葉を残している株を探し出し、種子の鞘の先端部が少し割れ始めた頃に採取します。この様な株は、耐暑性を持っている場合が多いと思われるからです。蒔いた株が茎立ちして来たら、本植えの鉢や土に先の要領で移植します。

株の管理

は私の場合は、一度移植したら植え替えはしません。また農薬も一切使いません、害虫は手で捕ります。栽培種のユリは、アブラムシをとても嫌いますが、この栽培法ではアブラムシが付いてウイルスに感染しても、病気を発症する事は有りません。水やりは、葉がある時に日照りが続く時は、1日一回行います。耐暑性が無いヤマユリやササユリを栽培する場合は、一日の日照が3時間を超えない程度の場所を選んで下さい。また耐暑性が無いからと言って、寒冷紗等で日除けをするのはお勧め出来ません。短時間でも直射日光は必要で、日除けをすると花が咲かなくなります。

 

以上この栽培法は、ヤマユリやササユリが採っている生き残り戦略を考慮して、考案した方法です。この「ユリ達の生き残り戦略」については、後日紹介したいと思います。もしヤマユリやササユリを栽培する機会があれば、この栽培法も試してみて下さい。

 

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木子を採取する前の元の株

 

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木子の付いた球根。親の球根はいじってはいけません。

 

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木子の球根の下根を切除した状態

 

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鉢に切り炭を詰めて、土で均した状態。この上に木子を置きます。

 

次回は「ナンテンの種子」を紹介します。