ナンテンの実

12月に入ると、ナンテンの実が赤く色付いて来ます。このナンテンは「難を転じる」として、縁起が良い庭木として植えられています。葉も殺菌作用が有るとして、お祝い等の料理の飾りとして使われています。このナンテンの実と花に、ただ見ているだけでは気付かないちょっと変わった仕組みが隠されていますので、それを紹介します。ただこの時期には花は見られないので、花についてはその時期に紹介します。またこのナンテンは、小鳥が実を食べることにより増えていますので、小鳥と実の関係についても解説しておきます。

種子の変わった形状

20年ほど前に、シロミナンテン(白実南天)の増やし方を尋ねられた時、「扱った事がないので正しいかどうか判りませんが、株分けして増やす方法が無難だと思います。多分白実の種子を蒔いても、白は中々出ないと思います。」と、これまでの経験を参考にして答えて置きました。その後も白実を蒔くと、白実がどのぐらい出で来るのか気になっていたので、白実を蒔いてみる事にしました。そこで白実の果実を、知り合いから50個ほど分けて貰いました。果実は直径7,8㎜のほぼ球形のものです。早速その表皮と果肉を取り除くと、中から半球形の種子が2個くっ付いて球状になった種子が出て来ました。果肉は白くて柔らかい物ですが、表皮の下に薄く有るだけで、小鳥が好む割には少量です。鳥にとって何か他に薬効でも有るのでしょうか。大きさは異なりますが、コーヒーの実に似ていますね。その実を割って半球形の種子を調べるとその内側が、空気の抜けたゴムボールの様に凹んでいたのです。これを見て私は、てっきりこれはシイナ(中身の無い種子)だと思って捨てようとしました。でも次の果実を開いてみると、同じ形状で又その次も同じでした。そこでやっと意味が有ってこの様な形にしているのだと気付きました。更にその確信を持ったのは、少し小さめの果実を開いてみると、中の種子は1個だけで、その形状は球形ですが、その両側が凹んでいたのです。もしやむを得ず凹んでしまったのであれば、1個入りの球体まで両側を凹ませる必要はない筈です。やはりこれは目的が有って凹ませていたのです。その目的は凹みに残る果肉の、発芽抑制作用だと思いました。この実を小鳥が食べると、凹みの中の果肉まできれいに消化吸収され、それが糞と一緒に離れた場所に撒かれて発芽するのでしょう。もし小鳥に食べられずに親株の根元に落ちれば、表皮と周りの果肉は腐っても、2個の種子に囲まれた凹みの中の果肉は残り、その発芽抑制作用で発芽出来ずに枯れるのでしょう。親株の根元に子株が生えてもらうと、競合して迷惑なのです。もしこの凹みが無かったら、果肉がきれいに無くなって種子は発芽してしまいます。多くの果物の果肉には、動物や鳥を引き寄せて、その果肉を食べさせるだけで無く、同じ理由でこの発芽抑制作用を持っています。この果肉を離さない様に、凹みの形状を作るのはとても珍しい方法です。これに似た方法として見られるのが、桃や梅の種子の殻の形状です。これらは殻に深い溝や穴を設けて、そこに果肉を支える繊維を通して、果肉が容易に外れない様にしているのです。動物の消化管は、この繊維もきれいに消化する様です。

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ナンテンの実を割ったもの、左は一粒入りのもの。

 

白実が出現する割合

話を元に戻して、白実の種蒔きについて解説しましょう。先に予想した仮定に従って、種子の凹みの中の果肉まで、しっかり除去して蒔くと、発芽率はかなり良く7割ほどでした。やはりこの凹みは、シイナではなかったのです。発芽した苗については、この時はまだ赤白の判別法を知りませんでしたので、木が大きくなり実を付けるまで待つしか有りませんでした。成長して実を付けた株を見ると、白は1割ほどで他は普通の赤でした。またそれと同時に、赤白の判別法も判りました。ふつうのナンテンの赤は、実が赤くなるだけではなく、全体の葉も赤みを帯びています。特に実が赤くなる秋冬は赤みが増して来ます。一方白実の方は、一年中葉は緑色です。葉の緑と赤みの差は僅かですが、慣れて来るとはっきり区別出来ます。この差は、実の付かない苗の時でも現れています。これは園芸業者が白梅と紅梅を取り引きする際、枝を切ってその断面が赤みを帯びているかいないかで、判定しているのと良く似ています。これなら花の時期で無くとも判定出来ます。この白を蒔いて白の出る割合は、実を採取した株の周りに、どれくらい白の株が在ったかにより、ななり違って来ると思います。現にこの時作った苗の白だけを残し、赤を除去して庭に植え付けて置いたところ、庭に実生する苗の白が増えて来ました。多分5割を超えているのではないかと思います。

白実と赤実の関係

ナンテンの実の赤いのは、それを食べる小鳥に遠くからでも、良く目立つ様にだと思います。それで実だけでなく木全体を赤みを帯びさせているのです。赤は鳥の食欲をそそる色と思われがちですが、食欲にはあまり関係無い様です。それを確認する為に、こんな植え方をしてみました。赤い実のナンテンの傍、約1.5と2mの所に2株の白実ナンテンを植えて置きました。これを鳥がどの様に食べて行くか、観察してみました。年により多少異なりますが、赤も白もほぼ同じ様に減っていき、ほぼ同時に無くなりました。もし赤が鳥の食欲をそそる色であれば、白は減らずに残るかずっと後に無くなる筈です。多分赤で引き寄せられた鳥が、隣の白実を見つけて、同じ様に食べて行ったのでしょう。この「赤が鳥の食欲をそそるか」の問題は、皮や周りを赤くして鳥を引き寄せて、黒い種子を食べさせる例が多い事から、多分黒か紺が鳥の食欲をそそる色なのでしょう。

白実の有る訳

次に何故白実ナンテンが存在するのかを考えてみましょう。白は目立たないので鳥を引き寄せる力が弱く、赤に比べて生存の競争力が劣ります。私はナンテンは元々白実で、そこに競争力が強い赤が突然変異で現れて、白を駆逐して行ったのではないかと考えています。これは植物の進化の過程です。そんな中で古い形質の白が偶々現れると、人々が珍しがって保存して増やしたのではないでしょうか。植物では進化する前の形態が、稀では有るが現れることが有るのです。

 

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赤いナンテンの実、奥に白実ナンテンがある。

 

補足

ナンテンでは以前から最近まで、ずっと気になっていた事が有りました。それは「南天の床柱」です。ナンテンは株立ちする木で、太い幹が一本立ちする木ではありません。20年以上経つと一株でも幹が十数本にも成りますが、その中の太い幹でも直径は5㎝を超える事はありません。幹は丈夫で堅いのですが、いかんせん柱には細過ぎます。ですからたとえ飾り柱であっても、床柱にはとても無理です。最近分かったのですが、やはりナンテンではなくそれは「イイギリ」でした。イイギリはその赤い実が房状に着くので、それを縁起の良いナンテンに見立ててこの木を、「イイギリナンテン」と呼ぶそうです。ナンテンでは床柱は作れないので、このナンテンの名の付いた木を縁起の良い木として使ったようです。ちなみに、この実はピラカンサと同じ様に、鳥にとってはあまり美味しいものではない様で、中々食べてもらえず最後まで残っています。

 

次回は「ギョウジャニンニク」を取り上げます。