耐暑性の強いヤマユリの増殖計画の練り直し

以前の投稿で 今までやっていた耐暑性の強いヤマユリの増殖法に、間違いが有ったと報告しました。前にも書きましたが 間違いの原因は、ヤマユリの耐暑性を 普通の遺伝因子と考えていたのが、とても弱い劣性遺伝因子だった事です。耐暑性を持った両親を 1世代掛け合わせたくらいでは、耐暑性の強い株の現れる比率は、殆ど高くならなかったのです。良く考えてみれば これは当然の事で、日陰の涼しい痩せ地を選んで 自生しているヤマユリにとって、偶にやって来る高温は それ程の脅威では無いのでしょう。ですから 耐暑性は それほどの重要な要素では無く、遺伝因子としても 劣性となるのでしょう。ただ 普通のヤマユリでも 極僅かですが 必ず耐暑性の形質が含まれている様ですので、それを上手く引き出せる可能性は まだ有ると思います。

そこで 今回は、その耐暑性に 厳しい選定基準を設けて その可能性を確認する、具体的な増殖計画を考えてみましたので、その手法を投稿しておきます。

現状の耐暑性

現在手元に有る 耐暑性を持ったヤマユリの集団は3つで、通常の耐暑性を持つ 早咲きの集団と、やや強い耐暑性の中咲のベニスジの集団と、耐暑性のかなり強い 遅咲きの集団で、これ等を最初の世代と言う意味で、0世代と呼んでおきます。今の様な温暖化の進み方では、早咲きの集団と 中咲の集団の耐暑性では、今年か来年の気温迄しか 耐えられないと思われます。現に早咲きの株は、7月に入ると全ての葉が枯れました。この株は10年以上毎年花を咲かせて、種子も採れていたのですが、去年辺りから 暑さに耐えられず 種子も採れずに、7月を過ぎると 葉が黄色くなり 弱り始めていましたので、今年の暑さが 限界の様です。中咲の株も 7月を過ぎると、下半分の葉が枯れ始めているので、これ以上の暑さには 耐えられないと思われます。

これ等の3つ集団は 元々 各1つの株から 木子で増えた集団で、今回この計画に使う 1世代目の株は、この0世代目の株を掛け合わせて出来た物です。今後の増殖計画に使える株は 遅咲きの集団だけですが、株の数は沢山有っても クローンなので、その集団だけでは 自家受粉になって 種子は採れませんので、使えるのは1株だけです。

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 f:id:tanemakijiisan:20230826173519j:image耐暑性を持った0世代目の両親から種子を採り、この春に発芽して その発芽率は 3割程だったのですが、8月下旬迄 残った株は 写真の通りです。辛うじて1%前後を維持しています。この等の苗には 両親とも強い耐暑性が有った訳では無く、片方又は両方に 早咲きや中咲の 耐暑性のそれ程強くない形質が混ざっていますので、その事が この様な耐暑性の発現の低さの 一因になっているのかも知れません。そこで 今回の計画では、厳しい基準を設け その様な要因も取り除く事を考えました。

これ迄やって来た耐暑性の有るヤマユリの増殖計画の手法は、基本的には 間違っていませんが、耐暑性が 簡単に高い比率で得られる事を期待していたのは 間違いでした。そこで 今度の耐暑性を持ったヤマユリの増殖計画は、次の様な 具体的な厳しい選定基準を設定して、耐暑性を持った株の 高い比率での出現を狙います。この計画では 資料の数を増やすよりも、基準を厳しくして 数の少ない 少数精鋭にし、代わりに 世代を繰り返す回数を増やす方が 効果的と判断しました。そこで 今年も予定していた 種子の採取と種播きによる、1世代目の資料を増やす事は やめました。

今の株の処置

今有るヤマユリの鉢植え株を、遅咲きの1株を残し 全て除去します。除去と言っても 廃棄処分する訳ではなく、知り合いの園芸業者に引き取ってもらうつもりです。長い日照時間の高温に耐えられなくなった株でも、日照時間が4時間以下の場所なら この暫くの間の温暖化でも まだ栽培可能です。園芸業者は 種子を採る目的で栽培するので、今の鉢のまま栽培すれば 後7,8年は使えると思います。

耐暑性の判定基準

耐暑性の判定は、日照時間が 8時間以上の場所で栽培し、8月末の時点の葉の状態で行う事としました。その時点で 黄ばみの無い緑色の葉が 3/4以上残っていれば、「強い耐暑性が有る」としました。今回の計画では、この強い耐暑性が必要とされる基準です。この基準は 固定的なものでは無く、今後予想される温暖化の進行により、段々と厳しいものになって来ます。でも この様な基準でないと、温暖化を生き残れる 野生のユリの集団を作る事は出来ません。

苗の選別方法

今有る5基の苗床のプランターの内、来年発芽予定は 2基です。その5基の苗床の中から、耐暑性の強い株を選び出します。その選定基準は 耐暑性とその他の強さを総合的に判断して、上位 0.3%から1% とします。具体的には 1基のプランターに 約300粒を播いていますので、各プランターの中から 1つから3つの株を選び出します。沢山選定候補が出て来た時には 上位 3株を選び、2つ以下であれば その数とし、候補が現れ無い時には 1位の株を選び出します。ただし この候補が出なかった時の株は、交配には使われない様に管理します。この方法で選び出すと 4年後迄に、少なくとも5株から 多ければ15株の1世代目の株が得られる筈です。選定の決定時期は、各プランターの中で 3株以上が茎立ちした時とします。これ等に 0世代目の遅咲き株を 1株加えます。選別を各プランター毎に行う訳は、1つのプランターは 全て1組の両親の子になっています。全てのプランターを一緒にすると、特定の両親の子が集中して選ばれ、集団の中の多様性が損なわれかねません。少数精鋭で行う場合には、この面は 特に注意しなければならない点です。

この選別から漏れた株は、先の園芸業者に引き取って貰うつもりです。

選別した株の栽培法

選び出した株は、炭を詰めたプラスチックの鉢に 植え付け、従来と同様の栽培管理を行います。ただし 従来は 鉢に植え付けると、翌年から木子で 球根が増え始めますので、その株を別の鉢に植え付けて 増やしていましたが、今回は増えて弊害が出ない限り 原則的には取り出さず、そのままにして 別の鉢には植え替えません。こうする事によって 鉢が違えば クローンではない株となり、どの鉢の株を掛け合わせても 他家受粉で 2世代目の種子が出来ます。また 余分なクローン株の鉢が無く、候補無しの株以外 鉢の区別は不要なので、管理が大幅に楽になります。でも 木子が良く増えるので、少し大きめの鉢が必要になります。今の株でも 多い株は、小さい物を含めれば 2,3年で 100球近くになっているからです。これは 耐暑性を持った株の数を増やす事が目的では無く、次世代の耐暑性の有る種子を採る事が目的だからです。

交配手順

交配の開始時期は 1世代目の株が 6株以上咲いた時とします。理想的には 出来るだけ多くの株が咲いた時の方が、より耐暑性の強い株を選べて良いのですが、それ迄待っていると 1世代の所要期間が 長くなり過ぎます。また 2株咲いた時に 交配の予備試験をしますが、出来た種子は この計画には使いません。交配手順は 耐暑性の高い5株を選び 各株1輪の花を使い、その花粉を 自分以外の4株に掛けて行きます。受粉作業は 念の為、各花2度行います。開花時期がずれている時は、先に咲いた株の花粉を 乾燥剤の入った小瓶に入れて、冷蔵庫に保管しておきます。この様にして 2世代目の種子を確保します。

選別された鉢植え株の保管

種子の確保が出来て それを苗床に播き その苗の選別が済んで、個別の鉢に植え替える迄、選別された鉢植えの1世代目の株は そのまま栽培保管されます。2世代目の株が 選別され 鉢に移された時点で、この鉢植え株は 先の園芸業者に廃棄処分されます。この様に 一つ前の資料が保管されていれば、何かの理由による 一つ前までの やり直しが出来ます。

2世代目の目標値

2世代目の株の栽培方法は、1世代目と同じです。この様にして作られた2世代目の株の 耐暑性を持つ株の比率を調べれば、この計画の選定基準が妥当であったか 判ると思います。1世代目の 耐暑性を持った両親から出来た種子の、耐暑性の現れる比率は 1~3%ですので、2世代目は 両親ともに強い耐暑性を持った株の筈ですので、この比率の目標値を 10%に設定し、この計画の成否を判定します。もし 2世代目が この10%を超えていれば、更に 次の3世代目を同じ方法で選別すれば その先が見えて来る筈です。でも 耐暑性を持った 0世代目の株を見つけ出すのに、既に10年近くかかっており、この2世代目の株とその花を確認する迄には、更にもう10年を要します。残念ながら 私には 2世代目の苗は見られても、その花迄は 見届けられないでしょう。この計画には 特殊な設備や器具や知識は 不要ですので、手間と根気さえ有れば 誰にでも出来る事です。趣味の人でも 専門家でも、誰かが必ず引き継いでくれると信じています。

もしこの基準で 2世代目の比率が 10%以下であれば、野生のユリの集団に 耐暑性を持たせるのは、想像以上に難しい事なのでしょう。