ウメの発芽

季節外れの 11月半ばに、ウメが発芽して来ました。でも これは気候の温暖化のせいではありません。ウメの種子の発芽抑制機構を調べている過程で、偶然現れて来た現象でした。まだ 実験の途中ですが、紹介しておきます。

ウメの種子の発芽抑制

ウメは 2段階の発芽抑制を有する とても珍しい植物です。1段目は 多くの植物に見られる、果実の果肉によるものです。この果肉は動物に食べさせて、種子を遠くへ運んでもらう為ですが、もう一つ大事な役割が有ります。それはもし動物に食べられずに 落ちたままになったら、その種子を 親株の近くで発芽させない様にする事です。ところがウメは、更に2段目の発芽抑制機構を持っているのです。それは 果肉が完全に除去されていても、種子が2個以上接近していると、発芽出来ずに死んでしまう仕組なのです。これは一箇所に纏まって複数の苗が出来ると、共倒れになって 丈夫な木が育たなくなる様な事を防ぐ為でしょう。これに似た現象は サンショウの苗にも見られますが、とても珍しい現象です。

発芽抑制の仕組

現在はまだ確認実験の途中で 断定は出来ませんが、今分かっている事から推察すると、その2段目の発芽抑制の仕組は 次の様になります。ウメは実が熟して果肉が除去されて 種子が土中に置かれると、真夏の高温の時期になると、種子は水溶性の発芽抑制物質を放出する様です。夏が終わって気温が下がり始めると、種子は発芽準備の為 周りから水分を吸収し始める様です。この時先に放出した発芽抑制物質が、ある一定以上の濃度で 周囲の土に存在すると、その物質も一緒に吸収してしまい、発芽出来なくなり 死んでしまうのでしょう。この状況は 纏めて蒔かなくても、種子の一粒当たりの周囲の土の容積が少なくても、同じ状態になります。鉢に一粒づつ蒔く実験では、種子1個当たりの土の容積は、直径と高さが 15cmぐらいが限界の様で、それより小さい鉢では 発芽出来ません。プランターなどでは、種子の間隔を 15cm以上開けないと発芽出来ません。その発芽抑制物質は、土中に 濃度は下がりますが 2年間ほど残っている様で、この事からこの物資は 気体ではなく、水溶性の液体と思われるのです。

今回の実験内容

そこで今回は 真夏の高温を避けたら、どうなるのか調べてみました。6月12日に、果肉をきれいに取り除いた 150個程の種子を、水で湿らせた新聞紙で包んで 家庭用の冷蔵庫の野菜室に 保管しておきました。それを気温が下がって 寒くなる前の 10月15日に 取り出し、20cmの鉢に 50個、25cmの鉢に80個を蒔いておきました。その際 冷蔵庫から出して 広げてみた時、15個程の種子が 殻が割れて、4,5cmの根を出していました。それらを取り除いた物から、5個無作為に選んで 殻を割って 調べてみると、5個全ての種子が生きていました。

蒔いた後の様子

蒔いてから 一月ほど経って 大きい方の鉢の端に、3本のウメが発芽しているのが見られました。冷蔵庫に保存中の発根や蒔いてからの発芽は、低温に長期間保持した為に、春化処理になってしまったのでしょう。野菜室の4℃程度では 反応しないと思ったのですが、もう少し温度が高い方が良かったのかも知れません。この様に ウメでは3本がかたまって発芽する事は、普通の状態では 絶対に起きない現象です。ですから 今のところ 発芽抑制物質は出ていないと 推察されます。このまま行けば 残りの種子は、来春に 一斉に発芽して来る事が予想されます。

f:id:tanemakijiisan:20211119221404j:image

11月17日の状態