ハコネサンショウバラの種子

今年はハコネサンショウバラの実が良く目立ちます。花が沢山咲いた訳ではないのですが、開花と受粉する虫の発生時期が上手く合ったのでしょうか。この変わった種子についての考察を紹介します。

家に植えた経緯

二十数年前に箱根を歩いている時、ハコネサンショウバラの実が落ちているのを見付けて、それを拾って来ました。このハコネサンショウバラは、標高6~700m以上の山で見られるので、平地で栽培出来るか確認してみようと、その種子を蒔いてみました。蒔き床は発泡スチロールの箱に鹿沼土を入れたものです。翌春に沢山発芽して来ました。その発芽率は、3,4割だったと記憶しています。知り合いにも分けて残り5,6本を庭の斜面に植えておきました。樹勢は割と強く周囲に草や木が繁茂していても、何とか枯れずに少しづつ大きくなって来ました。

開花

でも中々花を付けてくれません。半ば諦めかけていた17年目に、最初の株がようやく薄桃色の一重の花を、2,3輪咲かせました。他の株も1,2年遅れで咲き始めました。桃栗3年柿8年と言われ、特に長いと言われる柚子以上の年数がかかりました。これでは一般の方にはあまり実生はお勧め出来ません。

栽培条件

時間は掛かりましたが、これでハコネサンショウバラは、平地でも全く問題無く栽培出来る事が判りました。野生の木なので剪定等の手入れや施肥は不要で、植えっ放しにしても大丈夫な木です。でもそれなら何故平地に進出しないのでしょうか。その答えはハコネサンショウバラの繁殖戦略に有る様に思います。

果実の構造と繁殖戦略

果実は薄緑色の2,3cmのやや扁平の球形で、その周りには棘が生えています。中には白い3,4㎜の角ばった種子が沢山入っています。熟しても殻が割れる事は無く、そのままの形で下に落ちます。この様な方式の種子の散布は、とても珍しいものです。どうやって種子を撒く事を狙っているのでしょうか。ここで考えられるハコネサンショウバラの繁殖戦略は、次の様なものではないでしょうか。自生地の環境は寒冷で土壌の痩せた厳しいもので、小動物にとっても食料の少ない厳しい環境なのでしょう。特に冬場の食料の確保にはとても苦労していると思います。そんな時他の動物には棘が有って食べにくく、栄養価の高い果肉が無いこの種子は、殆どの動物は食べないのでしょう。でも中にはこの様な実でも競争相手が少ないので楽に入手できる為、食べてくれる小動物も現れても不思議ではありません。多分落ちている果実をそのまま巣に持ち帰って、じっくりと棘に注意して殻を割って中の種子を食べているのでしょう。その食べ残しが発芽するのを期待していると思います。ハコネサンショウバラは、これを狙ってわざと食べ難くし、熱量の高い果肉も作らずに済むので、この様にしているのでしょう。これは厳しい環境では通用しますが、環境の良い場所では全く動物には食べてもらえず、繁殖出来ません。それは環境が良く競争の激しい場所には進出せず、敢えて環境の厳しい場所で生存していく事を選ぶ戦略なのでしょう。

自生地の状況

ハコネサンショウバラを植えてから、箱根や周りの山を歩いている時、ハコネサンショウバラを見つけると、その周りもちょっと覗いてみますが、苗を見かけた事は有りませんでした。ハコネサンショウバラは、樹勢が強く寿命も長いので、焦って子孫を増やす必要が無いので、この様な変わった戦略を取っているのでしょう。

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次回は最近の害虫事情を紹介します。