宿根ソバ

10月に入ると、庭の宿根ソバの花が咲き始めます。あまり知られていない 珍しいソバですので、紹介しましょう。

由来

明治の初め頃に、ルチンを採る目的で チベット辺りから、持ち込まれた様です。実際には使われなかった様で、その後栽培地から逃げ出し、全国に雑草として広がった様です。ソバには珍しい 名前の通りの宿根性で、他に「ヤサイソバ」とか「シャクチリソバ」と呼ばれています。

形質

このソバは、熟した実から 次々と落ちてしまい 収穫が難しいので、穀物としては 栽培されなかった様です。花は 普通のソバと同様に、二つの型が ほぼ同じ割合で現れます。雌しべの方が長く 雄しべの方が短い型と、それとは逆に 雌しべの方が短く 雄しべの方が長い型の二つです。同じ株の自家受粉を避ける仕組みになっているのです。ただ 全く自家受粉をしない訳ではなく、1株だけでも実は付きますが、数はずっと少なくなります。その1株から出来た実から育った株は、また二つの花の型に分かれます。地下に出来た宿根は、2年程は養分を蓄える役割をしている様ですが、その後は新しい根茎にとって変わり、古い根茎は枯れてしまいますが、直ぐに腐らずに固くなって 地表を覆っています。他の植物の侵入を妨げているのでしょう。掘り起こすのに スコップの刃が入り難い程の堅さになります。草丈は 80cmから1m程になりますので、それより低い草丈の ドクダミ等の草は、このソバに負けて 消えてしまいます。この強さを持っているので、各地の荒地に広がったのでしょう。

実の性状

実は一時に熟さずに、熟した物から落として行きます。実の形と大きさは、普通のソバと同じで 茶色の三角錐ですが、三筋の稜は 翼状に出っ張っていて、強く握ると少し痛い感じです。外側の鬼皮を剥くと 中身は普通のソバですが、その玄ソバの表面は 緑色です。玄ソバの硬さは、普通のソバと同じです。

そば粉の性質

この鬼皮を剥いた玄ソバを 2週間程陰干してから、石臼で丁寧に製粉します。粉の香りは 普通のソバより 少し強い様で、色は 薄緑色になります。この粉でそばを打つと、普通のソバ粉よりも固くなり、水を2割程多めにしないと打てません。これを茹でると 茹で汁が緑色になって、鍋に緑色の筋が残るほどの濃さです。茹で上がったソバのは、濃い緑色で 香りが強く 苦味が有ります。ただ この苦味は、蒔いて1年目に収穫した物は とても苦味が強く、2年目以降に収穫した物は、苦味が減り 食べ難いほどの苦さは有りません。この苦味は いくら強くても、後を引くものではなく、食後はさっぱりした食感です。これは宿根が出来上がっていない1年目は、種子が食べられない様にし、2年目以降は 宿根が有るので、動物に運んで食べさせて その食べ残しを 離れた場所に発芽させる 生き残り戦略なのでしょう。このソバ粉をそば屋さんに持って行って、普通のソバ粉と半々に混ぜてそばを打って貰いました。出来上がったそばは薄緑色で、少し苦味が感じられ 香りも少し強い様に感じられました。打ち方も普通のソバ粉と殆ど変わりが無いと言っておられました。もう一軒のそばを出す食堂に同じ事をお願いしましたが、結果は ほぼ同じでした。

雑穀としての利用価値

このソバが 雑穀として使われなかったのは、熟した実が落ちない様に改良する必要が有る以外に、宿根は種を蒔くよりも管理が難しい為だったと思われます。種子は場所や時期を思い通りに管理出来ますが、宿根は種子を蒔く手間は省ける利点しか有りません。成分的にも 改良の手間を掛けてまで、この苦味がそれほど魅力的と思われなかったのでしょう。ただ 今後嗜好が変わって来て、苦味が重要視されて来れば、見直されるかもしれません。

 

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次回は 椎の実を 紹介します。