木性蔓植物の花を早く咲かせる誘引法

一般の樹木では、実生苗や揷し木苗はかなりの年数を経ないと、なかなか花を付けない事が多いのです。早く花を咲かせる方法として、「成木痛め」と称して幹や根を傷付ける方法が有りますが、木性蔓植物の場合は、特殊な誘引法を採ると早く花を咲かせる事が出来ます。ここでその誘引法を解説します。ただこれは実を早く付ける事では無いので、間違えない様にして下さい。

誘引作業の手順

その誘引法を手順を追って説明して行きます。なおこの手順の説明に出て来る数値は仮の数値で、実際に使う数値では有りません。説明をわかり易くする為のものです。

① 苗を1本仕立てで、1年又は2年かけて5m以上伸ばす。葉は全て残すが,脇芽が出たら全て欠き取る。

② 苗の根元に、先端が二股になった支柱を、地表から2mの高さに立てる。

③ 支柱の側に、地表から1.2mの高さの棚を作る。

④ 葉が落ちた冬に、5m以上伸びた蔓を支柱の先端の二股部分に掛ける。蔓が折れない様に緩い円弧を描く様に掛けておく。

⑤ 掛けた蔓の先を下方に下ろす。強く引っ張って折らない様に注意する。

⑥ 下方に下げた蔓の先端部を、水平に棚に這わす。棚に這う蔓は2m以上になる。

⑦ 次の春に水平の棚の部分の蔓だけを伸ばし、秋まで充分に日に当てる。根元から棚に至る迄の幹から盛んに芽を出して来るので、其れ等の芽を欠き取る。来季以降も良く芽を出すので、同じ様に管理する。

⑧ 棚の部分の蔓に付く芽が、翌春花を付ける枝の芽になる。翌春から棚一面に花が付く。

この誘引法の要点は、根元近くに垂直に下げる部分が有る事です。この例で言えば、80㎝下げています。この下げる高さは樹種により異なります。アケビが一番少なく、30㎝で効果が出ます。ヤマブドウやサルナシは、80㎝以上必要です。下げる位置は出来るだけ根元に近い方が効果が有り、中程や先端部を下げても効果は有りません。ただあまり根元近くで引き下げると、棚が低くなってしまうので、この例の棚の高さが適当でしょう。

考えられる理由

この様に誘引すると花が咲く理由として考えられる事は、蔓を通常の状態とは逆の、下げる部分を設けている事です。この部分によって根から吸い上げて上部に送る動作と、葉で作られた澱粉や生成物を根の方に送る動作の、両方が逆向きになり抑制され、その結果花を作るホルモンが異常に多く生成されるのではないかと思います。

この操作の利用法

実生や揷し木で作った苗を植えると、花が咲き始める迄かなりの年数が掛かります。特にヤマブドウマタタビ科の様な雌雄別株の実生株では、雌雄が分かる迄不要な株も長く育てなくてはなりません。木性蔓植物の場合は、この方法で育てれば4,5年で判別が出来ます。また花粉樹に使う雄株の場合は、早く花が咲く以外に、花の数が異常に多くなる利点も有ります。もし中々花が咲かない蔓植物が自宅に在る方は、是非試してみて下さい。

この誘引法の発見の経緯

二十数年前に四万十川の河岸で、葉の異常に細かいイツツバアケビを見つけたので、蔓を採取し庭に揷し木をしておきました。伸びた葉は普通の葉になってしまったので、そのまま放置しておいたところ、棚に這わずに隣の柿の木に巻き付いてしまいました。気付くのが遅れたので、一部の太い幹を残して棚に誘引した結果、根元付近を下げる誘引になってしまいました。誘引した翌々年に突然棚一面に、すごい数の花を咲かせました。その原因は引き下げた誘引に有るのではと考えて、ヤマブドウとサルナシで、1mと80㎝引き下げた誘引をしてみると、やはり翌々年に全ての芽に花が付きました。

注意点

この誘引法で沢山の花を咲かせても、沢山の実が早く付くと言う訳では有りません。初めは殆ど実が止まりませんが,年が経つと段々実が止まる様になって来ます。それでもこの誘引法を使わない場合よりは、早く実を付ける様になります。また既に有る太い蔓は誘引出来ませんが、どうしてもやりたい時は、曲げる部分の幹に軸方向に30㎝程の長さのスリットを4~6本入れて、その部分を撚りながら曲げてみて下さい。

 

次回は「デワノマタタビ」を取り上げます。