デワノマタタビ

マタタビマタタビ属の6番目の種?

従来日本に自生するマタタビ属の種は、シマサルナシ、ウラジロマタタビマタタビ、ミヤママタタビ、サルナシの、5種とされていました。私はそのサルナシの中に、サルナシとは異なるデワノマタタビと呼ばれる、別種が含まれていると考えています。かなり前に清水大典氏がその著書の中で、「サルナシ科の中にデワノマタタビという種がある」と記しておられましたが、サルナシとの違いや分布等の詳しい記述は有りませんでした。その為そこに書かれたデワノマタタビがこれから述べるデワノマタタビと、同一の植物と断定する事は出来ませんが、私はその中の僅かの記述から推察して、同一の植物であろうと思います。これから述べる「サルナシとデワノマタタビは別種である」と言う論旨については、まだ学会等一般に認められたものではなく、あくまで私が現地で現物を調べ、栽培による確認をした結果に基づいた私見です。将来一般的に追認されて来る事を期待しています。

サルナシとデワノマタタビの相違点

ではそのサルナシとデワノマタタビは、どの様に異なるのかを、以下に相違点について、項目毎に記載します。

◆ 染色体の倍数

サルナシは4倍体、デワノマタタビは6倍体。

◆ 自生地と分布状態

サルナシは全国的に満遍なく連続して中低山に自生、デワノマタタビ新潟県、長野県北部、福島県会津山形県に限られ、中低山から高山に比較的小さな離れた集団を作る。日本海に面した豪雪地帯とほぼ一致する。

◆ 樹姿

サルナシは高木に絡むものが多く、デワノマタタビは低木に絡むものが多く、地上を這う事もある。

◆ 樹皮

サルナシは平たく薄い皮状、デワノマタタビは縦に割れた厚い板状。

◆ 葉

サルナシは形は先の尖った円形で、滑らかな皮革質で葉柄は赤い、デワノマタタビは形はやや長方形で、面積はサルナシの2倍程で表面にうぶ毛が生え葉柄は緑色。

◆ 果実

サルナシは形は球形で、色は薄茶色で、単為結果はしない、デワノマタタビは形は根元がやや膨らんだ俵型で、重量はサルナシの2~3倍で数も多く、色は薄緑で、単為結果する。

◆ 蔓(新梢)

サルナシは表面が赤みがかって長い、デワノマタタビは表面が白っぽく太く短い。

 

この様な相違点が有りますが、染色体の倍数を除けば、一つの項目だけでは判定出来ません。総合的に見て判定します。

デワノマタタビに出会った経緯

十数年前に長野県小谷村で、サルナシのジャムを作っておられる方の畑を見せて頂いた際、その木を一目見てサルナシとは別種と感じました。そこで「これ本当にサルナシですか」と尋ねると、「近くの山中で良く実を付けたサルナシを見つけたので、それを畑で栽培している。この地域ではこれはサルナシと呼んでいる」との事でした。そこで付近の山を調べてみると、沓形山の林道傍や雨飾山の登山道傍に何株か同じ様な株が見られました。その後各地を廻って、その分布と資料を調べました。分布は判明したのですが、資料は見つかりませんでした。でもマタタビ科の植物の研究者として香川大学の片岡先生が居られる事が分かり、私よりも数年前に6倍体のサルナシの存在に気付かれて、その調査研究をされておられました。そこで私の調査資料を渡して、その研究の足しにして頂きました。

単為結果の検証

このデワノマタタビを建物の日除けに使ってみようと思い、湘南地域に在る二階建て平屋根の建物の屋上に棚を作り、そこに這わせてみました。植えたのは小谷村の栽培者から頂いた雌株ですが、デワノマタタビの雄株は無く、近くにキューゥイの雄株も無いので、花が咲いても実は期待出来ないと思っていたので、日除けとして使う事にしたのです。でも花が咲いてみると、全ての花が実を付けたのです。次の年念のため他の花粉が付かない様に、花に袋を被せてみたのですが、それでもしっかり実を付けました。この株だけの特異な形質かもと思い、各地のデワノマタタビの雌株を、3株植え足してみましたが、その全ての株が実を付けました。その熟した果実を割ってみると、中に小さい黒い粒の種子は有りませんでした。この結果からこの種は受粉しなくても果実が付く、単為結果をすると結論付けました。この形質は他のマタタビ科の種には見られません。

暖地での栽培

試験的に湘南の様な暖地で日除けとして植えてみたのですが、予想外に自生地よりも良く育つ事が分かりました。日照も気温も問題有りませんでした。花と実の数は自生地の倍近くになります。最も良く実を付ける株では、花が11節に付いていました。また雄株を傍に植えたり受粉をしなくても実を付け、施肥や消毒をしなくても良く育つので管理が楽です。単為結果の実は小さいのですが、キューゥイの受粉を受粉すると、25g程の大きな実が取れます。実の収穫は湘南地域では、9月末頃に全て収穫し室内の風通しの良い所に広げて、追熟させて柔らかくなった物から順に選んで使います。暖地でもこんなに良く育つのに、なぜ豪雪地帯にだけ自生するのか、その理由はまだ分かりません。

利用法

生食以外にジャムにして食べています。山取りの株は何れでも食用になる訳ではありません。野生の物は渋みやエグ味の有る物が多く、サルナシと同様に食用に向いているのはごく僅かの株ですので、栽培するときは枝を採取する前に実を食べてみるか、栽培者から枝を分けて貰う方が良いでしょう。実は皮が薄く産毛が無いので、柔らかくなればそのまま食べられます。味は淡白で甘味も酸味も僅かしか有りません。キューゥイよりも蛋白質分解酵素が多いので、肉や魚料理の食後の果物として良いかもしれません。

デワノマタタビの派生

デワノマタタビの分布を調べてみると、医王山や大山の麓に、少し小ぶりの葉や樹姿がデワノマタタビよく似た株が見られたので、香川大学の片岡先生に送って調べてもらったところ、染色体の倍数が4倍体だったのでサルナシでした。この様な株から染色体の倍数を6倍体にするものが現れ、デワノマタタビになって日本海側の豪雪地帯に広がって行った様に思われます。そのサルナシも、太平洋岸に分布していたウラジロマタタビから、染色体の倍数を4倍体にして、高地や寒冷地に進出して行ったのだろうと思っています。このデワノマタタビもそのサルナシと同じ方法を使って、より寒冷地の豪雪地帯向きにして分布を広げて行った様に思います。

 

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収穫前の物

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単為結果の大き目の物

次回はセイタカヤマシャヤクを取り上げます