樹木に優しい支え方

今年も台風の季節が近づいて来ましたので、樹木が風で倒されない様支えが必要です。この支え方を誤ると、返って木を痛めてしまう事にもなりかねません。ではどの様な支え方が木にとって優しいのか紹介します。

失敗例

我が家の庭に、揷し木苗から育ったサンショウの木が有ります。植え付けて7,8年すると、樹高が3m程になりました。揷し木苗から育てたものは、実生から育てたものに比べて、直根が無いので風に弱く倒れ易いのです。6,7年前の台風で45度ほどに倒れて、根が折れて半分ほどになってしまいました。直ぐに起こして高さ1.5m程のところに、三方から棒で支えを取り付けました。その取り付け方は、幹に緩衝材を二重に巻き支え棒と幹を、細めのロープで平らに密にして幅10cm程を縛りました。2年目にはかなり元気を取り戻して来て、ロープが少しきつくなったので縛り直しました。その翌年の台風は、通常とは逆の進路でゆっくりと進み、半日ほど強風が吹き荒れました。そのサンショウは支えが効いて倒れる事は有りませんでしたが、とても長い間揺すられていました。台風の季節が過ぎてから、支えを取り付けた箇所を調べてみると、とても広い面積の樹皮が潰されて枯れていました。その範囲は、幹の全周の6割近くで長さは10cmを超える所も有るほどでした。樹木にとって樹皮は、水分や養分を通す役割だけでなく、活発に細胞分裂をする幹の横方向の成長面です。ですからそこが失われると、木は弱りひどい場合は枯れてしまいます。このサンショウもかなり弱りましたが、何とか枯れずに済みました。

木に優しい支え方の原理

そこで今度は樹木に優しい、樹皮を傷めない支え方にしました。樹木の幹の中心部は仮死状態でとても堅く、骨格の役割を果たし木を支えています。ですから木を倒れない様に支えるには、樹皮を介さずに直接その骨格部分を支えられれば、木にとっては最も優しい支え方になるのです。ただ手品の様に全く外側の樹皮には触れずに、木の内側の骨格部分を支える事は出来ません。そこで樹皮に与える影響を最小限にする方法を採りました。その支え方も従来のつっかえ棒の様に押すのでは無く、倒れる反対側から幹を引っ張って支える様にしました。

具体的な方法

このサンショウの木は、高さ3m程で幹の太さは8㎝程で、根は一度倒れて一部が枯れて、地上15cmほどの所で二股になっています。その地上1.5m程の幹の部分に、幹の中心を貫通する直径6㎜の穴をドリルで明けます。その穴に径6㎜,長さ15㎝のM6のネジの切ってあるステンレスのフックをねじ込みます。反対側まで突き抜けたネジの部分に、ステンレスのM6のナットで止めておきます。そのフックの部分に二組のステンレスの撚り線のワイヤーを掛けます。そのワイヤーの反対側の端は、それぞれ堅固な構築物に固定します。ワイヤーには少し弛みを持たしておきます。我が家の風の方向は、地形の関係から一方向しか吹かないので、この一組の支えだけで十分ですが、全方向の風が吹く場合は、このセットを120度置きに上下にずらして3箇所必要になります。フックの太さは、樹木の大きさによって変えます。

この支え方が樹木に与える影響

この方法で樹皮に与える損傷は、幹の両側に開いた6㎜の穴だけです。この程度の傷であれば、この金具をもう2箇所付けたとしても、樹木には殆ど影響を与えません。ステンレスは錆びて膨らむ事も無いので、木が大きくなると木の中にそれを取り込んで行きます。木を支える為フックが風の強い力で引っ張られても、穴の周辺の樹皮が傷められる事は有りません。このサンショウも、まだ強い風に長時間晒される事は無いのですが、幹の回復と成長には今のところ全く影響を与えていません。

一般に見られる樹木の支え方

街路樹等の植樹した後の幼木は、両脇の少し離した所に丸太の支柱を立て、その支柱に横棒を渡して、それに幼木を縛り付けています。もし長時間の強風に遭うと、縛った部分の樹皮は傷められます。これは数年の内に棒と紐が腐って、そのまま放置して役目を終えます。大きな成木は支える事は有りません。ですから偶に街路樹が根本から折れたり、大きな枝が折れて落ちて来る事故が有ります。天然記念物等の老木に良く見られる支えは、太い枝を下からT字状の支えをしています。また太い幹に鉄の帯を巻いて、その帯を支えに固定するやり方をしています。どちらも木にとっては、とても酷な方法と言えるでしょう。樹木の枝は、その下面が成長して太くなるのです。それは枝の断面の木目を見れば良くわかります。ですからその成長面の最も痛み易い部分に、支えが当たる事になるのです。ちなみに根は逆に上面が太って成長します。もし枝が揺すられずに動かなければ耐えられるのですが、少しでも動けば樹皮が潰されて傷められてしまいます。幹に帯を巻くやり方も、その帯が邪魔になって幹が太る事が出来ません。枝や幹にステンレスの棒を突き通す事は、一見とても惨酷の様に見えますが、その方が樹木にとってずっと優しい支え方なのです。太い枝を折れない様に支えるには、枝にステンレス棒を突き通して、上から吊るのが理想的な方法でしょう。人間でも体の中に金属や樹脂を埋め込んで治療する事が有ります。外観から分からなければ、全く気にならないでしょう。樹木も見慣れれば、木に優しい支え方と分かってもらえるでしょう。

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サンショウの幹に取り付けたステンレスのフック
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支えで損傷した樹皮

 

次回はミヤママタタビの種蒔きを紹介します。