ミヤママタタビの平地での栽培

ミヤママタタビ

ミヤママタタビ中部地方や関東地方では、標高1500~2000mに自生するマタタビ科の木性蔓蔓植物です。マタタビ科の中では最も標高の高い所に自生しています。平地での栽培は難しいと思われて、栽培はされていない様です。ただ果実は採取が困難で小さいが、栄養価に優れているらしいと言われていました。

ミヤママタタビの栽培の試み

このミヤママタタビが、平地で栽培出来るか確認してみる事にしました。これは以前、高地に自生するセイタカヤマシャクヤクを栽培した時、色々な栽培条件を試して、平地での最適な栽培条件を見つける事が出来ましたので、その栽培条件の求め方をミヤママタタビに試してみたかったからです。苗は以前からお世話になっていた研究者から依頼されて作った、揷し木苗の残りを使いました。植え付け場所は、湘南の標高30~40mの所に建つ、二階建平屋根の建物の西壁面下にしました。この場所を選んだ理由は、そこの日照が午後12時から3時迄の3時間ある所だったからです。これはセイタカヤマシャヤクで、日照時間を色々試した方法を参考にして出した条件です。苗を植え付けるととても良く成長し、2年で高さ7mの壁面の上端に達して、4年で壁面の上側2/3を覆ってしまいました。成育状態は3月上旬に芽出し、3月下旬から4月上旬に開花し、7月中下旬に果実を収穫し、10月末迄蔓の先が伸び続けています。これらの時期と期間は栽培地の気温によって決まる様です。湘南での成育期間は自生地の2倍程になります。葉の大きさは自生地と同じです。4年過ぎると一部の葉がミヤママタタビ独特の桃色を呈して来ます。これは遠くからでもよく目立ち、花粉を媒介する虫を呼び寄せる為です。この変色は雌株だけでなく雄株にも現れ、雄株の方が少し鮮やかです。花は枝の根元近くの3~4節に付きます。キューゥイの雄株の花粉で受粉すると、ほぼ全てが結実します。実の数は自生地の3倍程で、大きさは自生地より少し大きめです。摘果せず全て成らしても、翌年に裏年になる事は有りませんでした。果実の味は淡白で、不味いとか食べ難い様な物ではなく、後味も問題有りません。もしこの実が優れた栄養価であれば、将来栄養補助食品としての価値が出て来るかも知れません。壁面から屋上の平な部分に進出した枝は、伸びが悪くなり葉の大きさも壁面の半分くらいで日焼けし、花は良く付くのですが、実は壁面の半分くらいに小さくなっています。この屋上の日照時間は10時間程になり、日照時間が長過ぎて栽培場所としては適して無い様です。

この栽培結果からすると、ミヤママタタビは、温暖な平地でも日照時間を制限すれば、栽培出来ると言う事になります。

標高と日照時間と気温の関係

この栽培地では日照時間は3時間が最適条件だと思いますが、自生地では10時間以上有っても、とても元気に繁茂しています。これは栽培地の標高(=気圧=気体濃度)と日照時間が関係していると思われます。気圧の低い自生地で、長時間かけて炭酸同化作用をする構造に作られた葉を、そのままで気圧の高い平地で長時間使うと、葉が障害を起こしてしまうのでしょう。障害を起こさない時間は、3時間程度だろうと想定していたのですが、多分それで合っていたのだと思います。この過剰な日照時間の代わりに、日照量を寒冷紗で弱めると、それでも葉が日焼けしてやはり障害を起こす様です。短時間の直射日光でないとだめな様です。この関係を20㎞程離れた標高の同じ様に低い場所で、栽培実験をして確認してみました。直植えではなく大きめのプランターを、10m程離れた2ヶ所に置きました。一方は日照時間3時間、もう一方は日照時間8時間の所です。結果は8時間の株は葉が小さく日焼けして、枯れる事は有りませんが枝の伸びが悪く、3時間の株は枝もよく伸びて、葉も普通の大きさで沢山付けました。この結果からも、標高と日照時間の関係が確認出来たと考えています。気温については、成育期間や開花や実の熟す時期に影響しますが、栽培そのものには影響しない様です。高温についても、熱帯夜や真夏日が何日も続いても、成育には問題有りませんでしたので、かなりの耐暑性が有りそうです。標高の高いところでは紫外線が強いので、それに対応する構造が耐暑性を高めているのかも知れません。

この日照時間と標高の関係は、セイタカヤマシャヤクでも同じ傾向でした。

剪定法

ミヤママタタビマタタビ科の中で、実を付ける位置が異なりますので、剪定法もキューゥイやサルナシとは違うやり方になります。実を付ける結果枝になる芽の位置が、他のマタタビ科の木は、前年に伸びた充実した枝の根元近くの芽になりますが、ミヤママタタビでは前年に伸びた充実した枝の、先端3分の1の所の芽になります。ですからキューゥイの様に,前年に伸びた充実した枝の根元の3、4芽を残してその先を切除してはいけません。ミヤママタタビでその様にやると,結果枝の芽を全て切り捨てる事になり、花は咲きません。ミヤママタタビは前年に伸びた充実した枝の、先端5分の1の所で切ります。細く弱い枝は、他のマタタビ科の物と同様に根元から切除します。果樹の中では、カキに似た実の付方で剪定方法も似ています。

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桃色になった葉

何故自生地から出ないのか

自生地に比べこの平地の温暖な地で、これほど良く育つのに、何故今の自生地から広がらないのでしょうか。それは成育に適した日照時間の場所が非常に狭い範囲で、集団を形成出来ないからかも知れません。また葉が標高の低い所で長く日に当たると障害を起こすのは、標高の高い自生地から出ない様に、故意にその様にしているのかも知れません。厳しい高地で種を長く温存する、生き残り戦略かも知れません。

種間雑種

この実から何回か種子を採取し蒔いてみましたが,一株も発芽は見られませんでした。やはりキューゥイの花粉を掛けているので、余程の偶然が無いと発芽しないのでしょう。以前一度だけサルナシにキューゥイの花粉を掛けて、一株だけ発芽した経験が有りました。このミヤママタタビも、数百とか数千の実を蒔けば種間雑種が得られるかも知れませんが、このコロナ禍の状況では無理です。

 その他

残念ながらこのミヤママタタビは、壁面栽培ですので手入れに設備と時間が掛かり、このコロナ禍では手入れが出来ず、やむを得ず今年から放置する事にしました。隣に雄株を植えておきましたので、上手くすれば虫が来て実を付けるかも知れません。今はそっと見守る事しか出来ません。

マタタビは揷し木苗を定植すると、すぐ近所の猫に持って行かれました。3回続けてやられたので栽培は諦めました。このミヤママタタビは、どの猫も全く関心は示しませんので、安心して栽培出来ます。

 

次回は「座論梅」を取り上げます。