隠れた生態系の危機

最近 虫と植物と鳥の生態系に、気付かない内に 色々な変化が起きています。

虫の減少

まず各種の害虫については、10数年前から 少しづつ減少する変化が現れていました。農家や園芸業者は 徹底した農薬による計画的な防除を行っているので、その僅かな変化には 気付かなかった様です。しかし 僅かであっても 確実にその変化は起きていました。毎年その虫の活動時期に合わせて、その虫が現れる植物の部位を観ていれば、農業では無理でも 趣味であれば、農薬を使わずに 手で捕虫出来ます。この様なやり方をしていると、その虫の発生状況の変化を感じる事が出来るのです。その決定的な変化が現れて来たのは 5,6年前でした。植物の虫による被害が それ迄少しづつ減少していたのですが、その頃 遂にほぼ その被害が消滅したのです。

その現象を具体的に ヤマブドウとボタンを例に挙げて説明します。ヤマブドウは10数年前迄は 植え付けて 2,3年の間に、必ず根元の幹に食い入る虫と新梢に食い入る虫にやられて、花を付ける迄 成長出来る株は1本も有りませんでした。それが 被害が少しづつ減り始め、数年前からは 全く被害が無くなり、今は花が咲いて 実を付ける様になっています。ボタンも10年程前迄は、毎年2,3株が 地表近くの幹から コウモリガに食い入られていましたが、その被害も 10年程前から減り始めました。現在では ボタンをはじめ他の植物も、コウモリガの被害は 殆ど出ていません。このコウモリガは原始的な生態の昆虫で、食害する対象を選ばず 幼虫から蛹になる迄、次々とその体の大きさに合った植物を 手当たり次第に食い入ります。この虫が減少した原因は、この虫は天敵も少なく 強かな虫なので、気候の温暖化が 最も大きいと思われます。因みに この虫の致命的な被害を防ぐには、雑草を含め 全ての庭の草の根元近くを監視して 小さい幼虫の内に発見し、見付けたら 銅線の鈎で 幹の穴から引き出して捕殺するのですが、今は全く監視はしていません。

これ等の虫の減少に合わせる様に、大量発生して 全ての葉を食い荒らしていた ケムシ類の被害も減っています。そのケムシ類の被害は、去年からは遭ってはいません。それ等のケムシは、葉の成長に合わせて 時期と卵を産み付ける部位が ほぼ決まっています。ですからその致命的な被害を防ぐには、一般の害虫と同様に その時期と場所を見張って、まだ小さい幼虫が 一ヶ所に集まっている内に、一網打尽に 手で捕虫するのがコツです。また 夜の間に地表に出て来て 葉を食い荒らす ヨトウムシの仲間も、最近は殆ど見なくなりました。

これ等の虫は 全て隣接する山から来ている筈ですので、庭で見なくなったと言う事は 「その山からも居なくなった」と言う事です。「沈黙の春」は 農薬や化学物質が その原因でしたが、今回の変化の原因は、全ての虫に現れている訳で無いので、やはり気候の温暖化なのでしょう。

その中で 一つ意外な現象は、アゲハがそれ程減っていない事なのです。アゲハは みかん科の植物の葉しか食べず、高度に進化した昆虫と思われ、環境の変化を受け易い虫と考えられていたからです。庭のレモンやサンショウの葉が、今もアゲハの幼虫に良く食べられています。

この様に 害虫であれば、その発生数の増減は気付き易いのですが、それ以外の虫でも 大きく変化しているかも知れません。

植物への影響

この虫の減少が 野性植物に与える影響は、食害が減少して生存競争に変化が現れる事以外に、虫と強い共生関係である虫媒化の植物達が種子を作れなくなる事により 生存が脅かされる事です。野性植物そのものが 気候の温暖化の影響を受けて減少するのと同時に、この虫の減少による虫媒花の植物の減少が加わると、一層重大な問題となります。

私の所で 最も影響を受けた植物は ユリでした。10数年前に 温暖化の影響で、庭で栽培していたユリが ほぼ消滅し、やっと探し出した耐暑性を持った株で 栽培していると、今度は10年程前から 花の柱頭に、虫が来た痕跡が全く見られなくなりました。この時期に 関東地方の里山のユリの花を調べてみたところ、柱頭に花粉の付いている花は 極僅かでした。花粉を媒介する虫が、殆ど居なくなったのです。その為 人工授粉しなければ、種子は全く採れなくなりました。以前は ユリの人工授粉をする時は、花が咲いたら直ぐに 柱頭にキャップを被せて、余計な花粉が付かない様にしていましたが、今は全くその必要は無くなりました。この花粉を媒介してくれる虫は、植物や人にとっては とても重要で、害虫でなくても その増減に気付き易い虫です。ヤマユリやササユリは 温暖化の影響を受け易く、低地の自生地からは 次々と姿を消しています。このユリ達は 交配により 極僅かですが、耐暑性を持った株を作り出して 温暖化を乗り越える戦略を持っています。でも その戦略も 虫が来てくれなければ 全く役に立ちません。

この虫媒花の野性植物が減少する変化は、宿根草や樹木の場合は 虫が少なくなる変化に対し、10年から20年くらい遅れて現れて来るでしょう。ただ その変化が温暖化によるものか 虫の減少によるものかは、その現象過程をしっかりと観察していなければ、それを判断出来ません。

鳥への影響

虫が少なくなって、その影響と温暖化で 植物が減り、更にそれ等の影響が鳥にも現れて来ます。虫は鳥にとって とても大事な食料源です。虫が少なくなり、その虫が媒介していた虫媒花の植物の種子も少なくなり、大型の動物を餌に出来ない小鳥達にとって、この変化は 生存に関わる大問題です。そこで小鳥達は 今迄あまり重視して来なかった、風媒花の小さい果実を 多く食べる様になったのではと感じます。実際ここ3,4年 風媒花のサンショウの実生苗を、我が家の庭や住宅地の庭で 良く見かける様になりました。今年 風媒花のヒイラギが実を付けたのですが、実が黒変して熟しても 全く鳥に食べられていません。やはりもう中型の鳥も 少なくなっているのでしょうか。今年は春が過ぎても ウグイスが山に戻らず、ずっと住宅地に留まっています。これも 山の虫が少なくなっているからでしょうか。

f:id:tanemakijiisan:20230718100849j:imageヒイラギの熟した実です。初めに熟した実は 採取して播いておきましたが、後から熟した実は 全く鳥が食べていません。