ベニスジの花

ヤマユリの変種にベニスジと呼ばれている花が有ります。今年も我が家で、このベニスジが咲きましたので紹介します。

入手の経緯

十数年前にユリの研究者から、ベニスジを1株分けて頂きました。そのベニスジは、その方が横須賀の栽培家から入手した株の木子だそうです。でもその株は、2,3年後に他のヤマユリと同様に、暑さの為消えてしまいました。しかしそれ以前にベニスジが咲いた時に、その花粉を他のヤマユリに掛けたり、他のヤマユリの花粉をベニスジに掛けたりして、種子を作って蒔いておきました。しかしそれらの実生苗も他のヤマユリの実生苗と同様に、その殆どが消えてしまったと思っていました。

残った耐暑性の有る株の復活

でも全てのヤマユリが消えてしまった後に、すぐに1本の株だけが残って花を咲かせる様になりました。しかしその花は普通のヤマユリの花で、今でも毎年花を咲かせています。その花が咲き始めた後、木の下の日当たりの悪い所に置いてあったユリ専用の多くの鉢の中に、生き残って生えていた小さな株が有り、それを日当たりの良い所に移して育ててみました。その株は耐暑性が弱い様で、7月中旬には枯れてしまいますが、球根は消えること無く年々大きくなり、分球や木子で数株に増えました。去年その中の2株に花が咲きました。この耐暑性が弱い株から咲いた花はベニスジでした。夏に枯れても消えないところを見ると、親株よりは耐暑性を持っている様です。

この株から2,3年遅れて、先に見つけた同じ場所に、耐暑性の強そうな小さな株が何株か有るのを見つけました。これらは強い耐暑性を持った株の様で、日当たりの良い場所に移すと、成長も早く木子も多く付けました。それらは去年はまだ花は咲きませんでしたが、今年数株が花を付けました。その内の半分ほどがベニスジでした。このことから判断すると、ベニスジは劣性遺伝では無い様です。

そこで今年花が咲いて初めて分かったのですが、ベニスジはどうやら2系統有った様です。去年から咲き始めたベニスジ以外に、今年から1週間ほど遅れて咲き始めた、別系統と思われるベニスジです。去年から咲いていた方を「ベニスジA」、今年から咲き始めた方を「ベニスジB」と呼ぶ事にします。先に咲いたベニスジAは、耐暑性が弱く既に下の葉が2,3枚枯れて来ていますが、遅れて咲く別系統のベニスジBの方は、強い耐暑性を持っている様で、葉は晩秋まで枯れずに青々としています。ベニスジBは生産性が高い為か、花の大きさがAよりもひと回り大きくなります。ベニスジの種子は新たに蒔いていませんので、ベニスジBはベニスジAと同じ時期の実生株の筈で、見つけるのが少し遅かったのでしょう。この2系統とも、元は1本の実生株から増えていったものと思われます。

ベニスジの花

ユリの花は内側の花弁が3枚で、外側の萼が3枚で構成されていますが、外側の萼は花弁と同じ形です。その為6枚の花弁の様に見えますので、以後この萼も花弁として扱います。普通のヤマユリはその花弁の中心には、縦に薄黄色のぼやけた筋が有ります。ベニスジはその部分が鮮やかな紅色なので、「ベニスジ」と言う名前が付けられているのです。蕾が大きく膨らんで来ると、紅色が外側からでも透けて見えるほどで、普通のユリとはっきりと違いが分かります。園芸種で鮮やかな赤の品種が有りますが、これらはこのベニスジに由来していると思われます。

野生での発生状況

自生地でも時々花弁の中心に、薄く赤色が入っている花が有る様です。私もその様な花をあちこちの山で、数は少ないですが見かけた事が有ります。みられた場所に地域性は無いので、特定の場所にだけ自生する変種では無い様です。この赤が極端に鮮やかに太くなったものだけを、ベニスジと呼んでいる様です。その様な極端に鮮やかな花は、野生では見た事はありません。

ベニスジの継承

今咲いているベニスジ達は実生2代目なので、元の親株よりは鮮やかさが劣る様ですが、ベニスジBの方がベニスジAよりは鮮やかな様に見えます。今年ベニスジが2系統花が咲きましたので、ベニスジAの花粉を耐暑性の有るベニスジBに掛けて、出来た実生株の内で、耐暑性が有り且つ赤の鮮やかな株を選別して行けば、耐暑性を持った元の鮮やかなベニスジが出来ると思います。ベニスジBの花粉をベニスジAに掛けるのは、ベニスジAは種子が稔る前に枯れるので出来ません。このベニスジは、野生のヤマユリとは言え変種なので、普通のヤマユリを耐暑性を持たせて増やすのとは、少し意味合いが異なる様に思います。耐暑性を持ったものが出来ても野生には戻さず、園芸種の様な扱いで種を引き継いで義遺伝情報を保存するのが良いのかも知れません。

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ベニスジAの花

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ベニスジBの花、蕾が膨らんでからの梅雨寒で開花が、予想よりも3日ほど遅れました。

 

次回は種間雑種のユリを紹介します。