ウメの種子の二重発芽抑制機構

ウメの種子には、いままで知られていなかった二段階の発芽抑制作用が有る事が分かって来ました。その二段階目の発芽抑制作用について解説します。

樹木の種子の発芽抑制

樹木の種子には、発芽抑制機構を持つ者が多く有ります。その目的は、親株の根元で発芽される事を防ぐ為です。親子で生存競争が生じ、種の繁殖にとって良くないからです。果物の場合は、種子に付いている果肉は、その捕食者にそれを食べさせる事によって、親株から遠くへ運ばせる為と考えられていますが、あまり一般には知られていませんが、もう一つの大事な働きが発芽抑制機能なのです。もしそれが食べられる事無く根元に落ちた時に、発芽してしまうのを防ぐ為です。果実にはこの他、特殊な被膜や種子の乾燥を発芽抑制に使う者も有ります。ウメの実の果肉にも発芽抑制作用は有りますが、その先にもう一段の発芽抑制機構が有ります。

調査のきっかけ

20年程前に、関西の梅農家の人から「父親がウメはまとめて種子を蒔くと、発芽しないと言っているのですが、どうしてですか。」との質問を受けました。私はそれまでその様な植え方をした経験は無かったので、「経験は無いが多分果肉が持っている発芽抑制作用によると思います」、と答えておきました。それから暫く経って、どうもその事が気になっていましたので、調べてみる事にしました。

発芽実験の方法

私は毎年梅干しを作っていますが、出来るだけ完熟に近い果実を使っています。その為実が少し落ち出すのを待って収穫するのですが、その収穫前に落ちた実を使って、この発芽実験をやってみました。

1回目は、30個程の実を果肉の付いたまま、まとめて蒔いてみました。予想通り1本も発芽しませんでした。この実験の場合は、必ず比較用に何個かの種子を果肉を完全に取り除いて、一粒づつ離して別の所に蒔いておきます。その比較用の種子は普通に発芽しました。

2回目は、30個程の実を果肉を完全に取り除いて、まとめて蒔いてみました。これも1本も発芽しませんでした。比較用の種子は発芽しました。

3回目は、30個程の実を果肉を完全に取り除いた後、3日間水に浸けてアク出しをして、まとめて蒔いてみました。これも1本も発芽しませんでした。比較用の種子は発芽しました。

それまでの発芽しなかった種子を調べてみると、殻は割れていませんでした。割って中身を調べてみると、白くどろどろに腐っていました。普通の発芽は、12月初め頃に殻を割って根が下に伸び出すのです。従ってその前の発芽準備工程で既に抑制作用を受けている事になります。そこで

4回目は、30個程の実を果肉を完全に取り除いて、プランターに炭の粒で作った用土に、まとめて蒔いてみました。翌春には1本も発芽しませんでしたが、次の年に端の1本だけ発芽し、その年の7月末に枯れてしまいました。これは種子が発芽抑制物質を、事前に出しているのではと予想して、それを吸着させる為にやってみたのです。

5回目は、50個程の実を果肉を完全に取り除いて、プランターに5cmの間隔で蒔いて、6月中旬に蒔いた種子を、7月末と9月末と11月末に10個づつ取り出して、直径5cm程のビニールポットに蒔き直してみました。プランターに残った物もビニールポットに移した物も全て発芽しませんでした。後でわかったのですが、移した容器の容量が小さすぎた様で、直径15cm以上が必要だった様です。これは発芽抑制物質が、植物フェロモンではないかと考えて、他の種子と引き離せば影響を受けないと思ったからでした。植物フェロモンであれば、自身には何の影響も与えません。結果は植物フェロモンではなかった事になります。

纏めて蒔くと発芽しない原因

ここまでの実験で考えられる原因は、種子が発芽準備に入る前に発芽抑制物質を出し、種子を植えた用土の容積が小さい場合又は、隣接して他の種子が在る場合はその物質が拡散されずに、その濃度が高い状態で発芽準備に入った種子が、水分と一緒にその高濃度の発芽抑制物質を吸収して、発芽出来なくなる事です。発芽しなかった種子を調べた結果からも、これらはその発芽準備の前に枯れている事になります。ではその種子1個当たりの容積とはどれくらいでしょうか。鉢の大きさで言うと直径と高さが15cm、プランターや直植えでは種子の間隔が15cm程度の容積と思われます。全ての実験の際に別途比較用に植えた種子は、全てこの基準より大きくなっていましたので、全く発芽しなかった年は有りませんでした。そこでこれを確認する為、

6回目は、30個の実を果肉を完全に取り除いて、10個づつに分けて次の3種類の植え方をしてみました。一つ目は再度確認の為、直径と高さが12cmの鉢に植えました。二つ目はもっと小さい直径と高さが6と8cmの鉢に植えました。三つ目は前年に小さい鉢に蒔いて発芽しなかった物の用土を使ってみました。鉢の大きさは、直径と高さが13と10cm程です。結果はこれからです。

発芽抑制機構の意味

そこでウメはなぜこの様な発芽抑制機構を設けたのか、その理由を考えてみましょう。多分動物に多量に食べられて、その種子が固まって一箇所に排泄された時、同時に沢山の株が出来てしまい、それらが共倒れになる事を防ぐ為かもしれません。ただ普通の果実では、その果実の成分を工夫し一個体に独占されない様にしています。サルナシの仲間は、蛋白質分解酵素を多量に含ませているのもその為でしょう。クコの実も鳥は少ししか食べません。この目的は作った種子を多くの個体に食べさせて、無駄無く出来るだけ多くの場所に蒔く事で、混植を防ぐ為では有りません。ですからウメのこの発芽抑制作用が、本当に混植を防ぐ為かは疑問の余地が有ります。

 

次回は、ヤマブドウを紹介します。