ユリと風の関わり

ユリの名前は、「花が風にユラユラ揺れるから来ている」と言われています。ユリは、その根、茎、花、種子の各部が風と深く関係する仕組みになっています。これらは意外と気付かれていないのもので、どの様に風と関係しているか、各部について解説していきます。

ユリの根は、球根の上下に着く独特の形態を持っています。もし風に関係無ければ、普通の球根植物の様に下の根だけで済む筈です。ユリは上体を風で揺らす為それに耐える構造が必要で、その揺れを受け止める為には、出来るだけ地表に近い部分に、強靭な根を持つ必要が有るのです。それで根を上下に設けているのです。その根は春に地表近くに広く伸ばした後、その根を縮ませて茎を四方八方に引っ張ります。この張力によって、茎がしっかりと支えられているのです。

茎と葉

茎の外側に強靭な皮を作り、茎が撓んでも内側に凹んで茎が折れない様に、内側を硬めの綿状にしています。これはわずかな風にも揺れてしなり易く、且つ強風にも耐える為です。まるで釣り竿が僅かなアタリを感じ取れるが、強い引きにも耐えられるのと良く似ています。葉も風に逆らわず、やり過ごす様に細めでしなやかです。

ユリの花は横を向いて咲き、それを風で揺らします。でも受粉や後の事を考えれば、上を向いて咲く方が都合が良いのです。ではなぜ横を向くのか、それは数十メートル先の地表近くにいる、受粉をしてくれる虫に合図を送る為です。我々も街で人と待ち合わせをする時、待っていた人が遠くに見えたら、手を広げて掌を相手に向けて大きく左右に腕を振るでしょう。ユリも同じです。花が上を向いていたり、じっとしていては目立ちません。では何故上向きが受粉や後々に都合が良いのでしょうか。それは雌蕊の柱頭と花後の子房の動きを見れば解ります。虫が受粉に来た際上手く止まってくれて、花粉が受け取り易い様に柱頭だけを上に曲げています。受粉が上手く行って花弁が落ちて4,5日すると、子房の柔らかい内に横を向いていた子房を、まっすぐ垂直に立てます。もし花が始めから上を向いていれば、これらの動作は不要の筈です。ユリにとっては受粉してくれる虫を迎える事が最優先で、その為余分な動作をしてでも、花を横に向けて僅かな風でも捉えて揺らしていたのです。このユリの子房の動きは、ユリの受粉が上手く行ったかどうかの判定にも使えます。またユリが崖地の様な斜面に生えて茎が横向きになっていても、花の水平と子房の垂直の向きは変わりません。

種子

9月になると種子が完熟し、種子の鞘が3つに裂けて来ます。この時は茎が風で揺れる必要は無いのですが、種子を放出する際には、風が重要な役割を果たしています。この時割れた鞘が多少揺れても、割れ目から種子が落ちる事は有りません。それはこの鞘の割れ目には、細い繊維の網が張られているからです。もしこの時鞘が垂直ではなく、横や下向きになっていたら、中の種子は少しの揺れで先端の開放部から直下に落ちてしまい、遠くへは飛んで行けません。この為花後に直ぐに子房を垂直に立てていたのです。鞘の割れ目は下端まで達しています。そこに強い風が吹いた時、その割れ目から鞘の中に風が吹き込み、その渦で種子の一部を上端の開放部まで巻き上げて、外に放出してその強い風に乗せて遠くへ飛ばします。弱い風邪では種子は巻き上がらずに外に出ません。種子は平たくその周りに薄い翼がついています。種子の成分は重い澱粉質ではなく、軽い脂肪に富んだ物になっています。この構造は松の種子に似ていますが、飛翔性能はマツよりずっと良いと思います。松は高い位置から飛ばしますが、ユリは低い位置からなので、その分高く舞い上がる必要が有るのです。

以上の様に、ユリはとても上手く風を利用した植物と言えます。これからはその花だけではなく、全体を観察してみて下さい。

 

次回は「ミヤママタタビ」を取り上げます。