アシガラサンショウ

そろそろサンショウの花が咲き始める季節になりました。サンショウは雌雄別株の樹木です。雄花を付ける雄株の中に、その雄花に混じって、雌しべと雄しべを持った両性花を付ける株が見つかりました。両性花を付ける株はまだ報告されていなかったので、この様に両性花を付ける株を「アシガラサンショウ」と呼ぶ事にしました。今回はこのアシガラサンショウを紹介します。

発見の経緯

十数年ほど前に、箱根山の外輪山の東側の登山道を歩いていた時、直径10cm程のサンショウの大きな木に出会いました。その木の枝をよく見ると、棘が付いていませんでした。豪雪地帯では棘の無いサンショウは珍しく無いのですが、この地域ではとても珍しかったので、枝を採取して家で揷し木苗を作りました。その苗を庭に直植えして置いたところ、10年程して高さ3mの大きさになった頃、周りの草刈りをしていると、雄株である筈のその木に、実が1個付いているのに気付きました。驚いてその木の全体を調べてみると、他に8個も見つかりました。そこで知り合いの大学の先生と相談して、翌春に花を調べてみる事にしました。初めは雄花に混じって雌花が有るのだろうと思って調べていたところ、雌花ではなく雌しべと雄しべの有る両性花が混じっていました。この発見をその先生と一緒に園芸学会に発表しました。その際この木を採取地に因んで、「アシガラサンショウ」と名付けて頂きました。ちなみに採取した元の木は、その数年後にあった酷い日照りで枯れてしまいました。

両性花の詳細

この両性花を見つけてから数年になりますが、良く調べてみると色々な事が分かりました。雄花に混じる両性花の比率は、多分1割近くではないかと思われます。花が小さくまた雌しべが不完全な花も多いので、その正確な比率は良く分かりません。両性花の実が止まるのは、その中の1割程の様です。サンショウは風媒化で、普通はとても着果率は高いのです。近くに在る雌株は、ほとんどの花が実を付けます。ですからこの着果率の低さには、何か特別な理由が有りそうです。考えられる理由としては、自家受粉を殆どしないのに、自分の花粉が先に付着してしまい、通常の受粉が出来ない為なのかも知れません。最初に見つけた年は、雄花を「花山椒」として食用に採取した残りなので、実が9個しか有りませんでしたが、その後は毎年40個程の実が付いています。両性花の数と実の数は、年による変化はあまり無い様です。ただ枝による実の濃淡の変化は有る様です。雄花の花柄は花が終わるとすぐに花と一緒に落ちるのですが、両性花の花柄は花が終わって実が止まらなくても、花が落ちた後1週間以上残っています。普通のサンショウの雌花は、雌しべを2本付けるのが普通ですが、両性花の方は殆ど1本で2本は僅かです。

雌株に付く両性花は?

今回見付けた両性花の付いた株は雄株でしたが、雌株にも両性花は付くのでしょうか。今回は両性花ではなく雄株の実を見付けたので、両性花の存在が分かったのですが、雌株には実が付くので実から調べる事は出来ません。雌株の場合は、花を調べるしか方法が有りませんが、花を調べる事に限って言えば、雄しべが目立つので、雌花の中の両性花の方が、見付け易いと思います。でも両性花が有るかどうか分からない株を、花だけで調べる事は、やってみると実際には不可能です。今のところ、雌株に両性花が存在しない根拠は無いので、多分有るだろうと思っています。このアシガラサンショウの実生株に出て来るであろう雌株には、両性花が現れる可能性が高いので、丹念に花を観察すれば「雌株にも両性花が付くか」の答えが出るのではと期待しています。

f:id:tanemakijiisan:20210302162847j:image

5本の雄しべの中心に1本の雌しべが見られます。普通の雌花の雌しべは、2本が普通です。

f:id:tanemakijiisan:20210302163035j:image

採取した果実です。

f:id:tanemakijiisan:20210314121919j:image

右の方が去年の9月に蒔いた、アシガラサンショウの種子の3月中旬の発芽の様子です。左の方は紛れ込んだイヌシデと思います。葉が出ると分かります。

f:id:tanemakijiisan:20210314123036j:image

アシガラサンショウの揷し木苗です。サンショウは緑枝揷しで容易に増やせます。

他の雌雄別株の樹木の両性花

サンショウで両性花を見付けて以来、他の雌雄別株の樹木についても気を付けていました。そんな時庭のギンモクセイの枝が、隣の木と絡み合っていたので剪定しました。その枝を念の為に詳しく調べてみると、4個も実が見付かりました。すぐ木全体を調べてみると、まだ8個も見付かりました。ギンモクセイは園芸種の樹木で、雄株しか存在しない事になっています。それ以来2年ほどその木の花を観察していますが、両性花も実も見付かりません。こちらは年によるバラツキがある様です。情報を調べてみると、ギンモクセイに実がつく事は時々報告されている様でした。更に我が家にあるヒイラギの雄株にも、実が付いているのを見付けました。その木は二十数年前に近くの山で採取した木です。隣の屋根の上に伸びてしまった、太さ7,8cm長さ2m程の枝を切り取った時、一日がかりで葉を一枚づつ取り外して丹念に調べてみました。するとギンモクセイによく似た実が2個見付かりました。全体を調べようとしたのですが、葉の棘が痛くて無理でした。でもこの割合から考えると、まだ数個は有りそうです。この木もその後もよく調べているのですが、まだ両性花も実も1つも見付かりません。

これ等の雌雄別株の雄株で実の付く事例は、全く報告されていないか極僅かです。この無作為に採取した3株が、同時に一箇所に集まる確率は何億分の1となり、これは有り得ない事象です。これはやはり「報告が無い事は、それが存在しない事」、とした前提が間違っているのでしょう。ですから雌雄別株の雄株で実を付ける事は、実際にはかなり頻繁に起きているのですが、全く気付かれていないのでしょう。確かにこれ等を意識して見つけるのは至難の業です。ましてや雌株に付く両性花を見付けるのは、全く無理です。その実は両性花によって出来たとは、断定は出来ませんがほぼ間違いないと思います。進化の前に戻っている変化と考えると、納得できます。もしこの事に興味と暇のある方が居られれば、身近に在る雌雄別株の雄株を丹念に調べてみて下さい。

f:id:tanemakijiisan:20210302163114j:image

ヒイラギの果実です。

両性花をつける株探し

両性花を見付けてから、他にも両性花を付けるサンショウの株が有るか調べようと思い、サンショウの多く生えている山に出かけて探してみました。花を調べるのは難しいので、実の付いた雄株を見付けようとしたのですが、まだ1本も見付けられません。雌株にある両性花を見付けるのは殆ど不可能ですが、雄株ならば見つけられると思って探したのですが、その実の比率が低すぎるのと、足場の悪い山中なので見付けられませんでした。でも先に述べた通りこの様な株は見つけられないだけで、実際にはかなり存在するのではと思っています。

両性花の意味

この両性花は、サンショウが雌雄別株に進化する前の形態だと思います。ついでですが、進化前の両性花には雌しべは1本だった様で、雌雄別株に進化する前後に、現在の2本に変化した様です。

生物は常に凡ゆる方向に変化していますが、その変化が環境や競争に都合の良いものだけが進化となったり、異なる環境への進出となります。この雌雄別株は自家受粉を避ける究極の方法であり、他の多くの植物が採用して進化して来ました。植物が変化する凡ゆる方向の中には、進化の前の状態も含まれます。普通はその様な変化が現れても、それは都合が悪かったので変えたのですから、すぐに消滅して人の目に触れる事は有りません。でもこの様な変化は必ず少しですが現れているのです。このサンショウで言えば、進化前の元の両性花が少しだけ現れる現象だと思います。人はこの現象を利用して、食用化や観賞用等に変化させているのです。

両性花の世代変化の確認

ではこの両性花で出来た種子は、どの様な形質を持っているのでしょう。まずこの種子がどの様に出来たかです。自家受粉と他家受粉のどちらか又は両方が考えられます。他家受粉であると、この形質は半分しか伝わっていない事になります。サンショウの実生株は、普通は雌株と雄株の比率はほぼ半々になるのですが、この実生株も雌株と雄株の両方が出てくる事を期待しています。もし両性花の付く雌株と雄株が現れれば、それ等同士で他家受粉の実生株が得られます。そうすれば確実に両性花を受け継いだ株が得られ、その形質を調べれば、色々な事が分かって来ると思います。その雌株にも両性花を付けるのかや、両性花の数の比率はどうなるのかや、雌しべの数は等、とても興味は尽きません。でもサンショウは気難しい木で、環境や移植に影響されて、大きくなる木は少ないのです。この現在成長中の実生株達が花を付けるは、少なくとも後1,2年はかかりそうです。

 

次回はまた春の庭の様子をお見せします。

 

 

早春の庭

3月に入ると庭の草や木が動き出します。その発芽や新芽の様子を紹介します。

最も早く動き出すのがギョウジャニンニクです。2月の中旬にはもう芽を出して来ます。

f:id:tanemakijiisan:20210305200033j:image

この箱の株は、植え付けてからそのままで何も手を付けていません、右隣に少し見えているのは、2,3年前に左の親株から採取した種子を蒔いで育てた株です。それ以前に蒔いた7,8株は、大きな株になり植える場所が無いので、去年の秋にセイタカヤマシャクヤクの箱に同居させました。広い所に植えると、余地が無くなるまで増えます。

f:id:tanemakijiisan:20210306160553j:image

去年の夏に蒔いた種子が発芽した4株で、1本は浮き上がってしまったまま発芽しています。

次に動き出すのがヤマシャクヤクです。3月初めに葉を出し始めます。

f:id:tanemakijiisan:20210305202346j:image

これも一度植えたらそのままです。ただ小さい箱に植え付けてしまった株は、大きい箱に植え替えてやります。10年以上経っても、毎年花を咲かせ実を付けます。十分乾燥させた小枝のチップを敷き詰め、水やりだけで施肥はしません。

3月初めには、ボタン、シャクヤクヤマシャクヤク、セイタカヤマシャクヤクが、種子から一斉に発芽して来ます。

f:id:tanemakijiisan:20210306115718j:image

去年の8月にまとめて蒔いておいたボタンです。

f:id:tanemakijiisan:20210306120015j:image

自然に鉢に落ちた種子が発芽したシャクヤクです。

 

f:id:tanemakijiisan:20210305212026j:image

去年の夏に蒔いたヤマシャクヤクです。大きくなると芽出しが少し早くなって、2月中旬には芽が動き出します。

f:id:tanemakijiisan:20210305213750j:image

一昨年の秋に蒔いたセイタカヤマシャクヤクの発芽です。このセイタカヤマシャクヤクは、種子から発芽する時期はヤマシャクヤクと同じですが、大きくなるに従って春の芽出しが遅くなって、4,5年すると一月遅い4月上旬になります。

f:id:tanemakijiisan:20210306120353j:image

12月に開花した冬至梅が、3月初めにはもうこんなになってます。一緒に写っている枝は、アシガラサンショウの新芽です。

f:id:tanemakijiisan:20210306161130j:image

ザロンバイの花がらが落ちた後の姿です。

f:id:tanemakijiisan:20210306120634j:image

1枚葉のユリは、3月上旬に葉を出し始めます。大きなユリは4月中旬に芽を出します。上の端にある葉は、ラン科のネジバナで、自然に生えて来たものです。

f:id:tanemakijiisan:20210306161520j:image

5,6年前に耐暑性の有るヤマユリの種子を蒔いて成育中の株です。自家受粉なのでようやく採れた5,6粒の種子を蒔いて、3株発芽してそこから残った1株で、2本の一枚葉はその木子です。順調にいけば、再来年には花を付けると思います。

 

次回は「アシガラサンショウ」を取り上げます。

 

 

セイタカヤマシャクヤク

ヤマシャクヤクは、春に明るい雑木林の中にひっそりと白い花を咲かせる宿根草です。山野草愛好家の間では人気のある植物です。その栽培法を調べている中で、ベニバナヤマシャクヤクと言う変種が有る事を知りました。そこでそのベニバナヤマシャクヤクを入手して栽培したところ、これはヤマシャクヤクの変種ではなく、ヤマシャクヤクとは別種の植物であると確信を持ちましたので、その経緯を解説します。

栽培法の検討

20年以上前に、近くの植木市でヤマシャクヤクを見かけて、一鉢買い求めました。庭の薄日のさす木の下に直植えしたところ、1個有った蕾が花を咲かせて種子が2個採れたのですが、翌年芽を出さずに消えてしまいました。蒔いた種子も発芽しませんでした。そこでもう一度栽培に挑戦してみました。今度は直植えせずに、深さ15㎝程の発泡スチロールの箱に、底に炭を敷いて根塊がやっと隠れる程度の浅植えにしてみました。発泡スチロールの箱は、以前から寒冷地の植物の栽培に良い印象が有ったからです。乾燥防止と施肥を兼ねて、用土の表面には十分乾燥させた小枝のチップを、1㎝程の厚さに敷き詰めておきました。箱の置き場所は、直射日光が1日3時間程あたる所にしました。結果はとても良く育ち、毎年花を付けて種子が沢山採れました。

ベニバナヤマシャクヤクの栽培

植物図鑑にヤマシャクヤクの変種に、花が赤い変種が載っていましたので、どんな植物なのか栽培して調べてみようと思いました。現物が中々入手出来ませんでしたが、やっと植木市の山野草の店で見付けて買い求めました。ヤマシャクヤクと同じ様に栽培してみましたが、育ちがあまり良く有りません。色々栽培法を変えて試してみたところ、植え付けの深さと日照時間を変えるのが大事な要点である事が分かりました。この最良の状態で栽培すると、ヤマシャクヤクよりも多くの種子が採れました。

ベニバナヤマシャクヤク?、セイタカヤマシャクヤク

このベニバナヤマシャクヤクについて、植物学的な情報を探していたところ、山形の研究者がベニバナヤマシャクヤクと違う赤花のヤマシャクヤクを栽培しておられる事が分かりました。詳しくお聞きすると、「いわゆるベニバナヤマシャクヤクと呼ばれている物は、此方ではセイタカヤマシャクヤクと呼んでいます」との事でした。その赤花のヤマシャクヤクは、「そのセイタカヤマシャクヤクとは違う物で、ヤマシャクヤクと同じ様な形質で、花の色だけが赤色です」と言われていました。私もベニバナヤマシャクヤクを栽培してみて、これはヤマシャクヤクと別種の植物と思いました。資料によれば〝ベニバナヤマシャクヤクは、花の色が赤いヤマシャクヤクの変種〟としていますので、この赤花のヤマシャクヤクが正にベニバナヤマシャクヤクと言う事になります。となると今までベニバナヤマシャクヤクと呼ばれていた物は、セイタカヤマシャクヤクと呼ぶのが正しいと思います。そしてこのセイタカヤマシャクヤクは、ヤマシャクヤクとは別種であるべきです。

ヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤクの相異点

ではヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤクがどの様に異なるのか、項目毎にその相異点を解説します。

◆ 発芽時期と期間

ヤマシャクヤクは翌春の3月上旬で、セイタカヤマシャクヤクは2年目の3月中旬になります。

◆ 芽出し時期

ヤマシャクヤクは2月下旬で、セイタカヤマシャクヤクは2年目は3月中旬で、それ以降徐々に遅くなり、4,5年すると4月上旬となります。

◆ 開花時期

ヤマシャクヤクは4月上旬で、セイタカヤマシャクヤクは5月上旬になります。

◆ 花の色

ヤマシャクヤクは白で、セイタカヤマシャクヤクは赤です。

◆ 草丈

ヤマシャクヤクは15~20cmで、セイタカヤマシャクヤクは30~45cmです。

◆ 葉

ヤマシャクヤクは幅10cm程の3枚葉で、セイタカヤマシャクヤクは幅15~20cmになります。

◆ 種子の熟期

ヤマシャクヤクは7月で、セイタカヤマシャクヤクは9月になります。

◆ 葉の枯れる時期

ヤマシャクヤクは7月で、セイタカヤマシャクヤクは10月になります。

◆ 根塊の深さ

ヤマシャクヤクは地表の接する程度で、セイタカヤマシャクヤクは地表から5,6cmです。

◆ 種子の数

ヤマシャクヤクは1輪あたり5~10個で、セイタカヤマシャクヤクは15~30個になります。

◆ 日照時間

ヤマシャクヤクは1日3時間程で、セイタカヤマシャクヤクは5~6時間となります。

◆ 自生地

ヤマシャクヤクは全国的に分布し、明るい落葉樹林の林床で、セイタカヤマシャクヤクは自生地が少なく、詳細は不明です。過去に自生していたと言われる所は、今は殆ど消滅しています。

 

以上の資料は湘南地域で標高20m程の所のものです。

日照時間と標高の関係

ヤマシャクヤクは標高に関係無くどの自生地でも、明るい落葉樹の多い林床でしたが、セイタカヤマシャクヤクの標高900m程の自生地を見ると、開けた草原で日照時間は10時間は有りそうでした。湘南地域では10時間にすると、徐々に弱って来て消えてしまいます。林床にするか 5,6時間にしないと元気に育ちません。栽培する場所の標高によって、日照時間が決まってくる様です。

標準地栽培による形質の比較

各地のヤマシャクヤクを採取して栽培してみましたが、自生地では色々な形質を示していても、我が家ではその違いは無くなって、ほとんど同じ様な形質に揃っています。この事からその植物の種の判定をする際は、自生地における形質を比較するだけでは不十分で、可能な限りどこか標準地を定めて、そこで現れるそれらの形質を比較する必要が有ると思います。この様に広範囲に自生する植物では、自生地の環境により現れた形質か、その種が本来持っている形質かを、はっきり区分しないと正確な種の判定は出来ません。

ベニバナヤマシャクヤクは本当に存在するのか?

山形の研究者が栽培しておられた赤花のヤマシャクヤクが、本当に安定したヤマシャクヤクの変種なのか、それともヤマシャクヤクとセイタカヤマシャクヤクの種間雑種なのかを検証する必要が有ります。もしそれが変種では無く種間雑種であると、今までベニバナヤマシャクヤクと呼ばれていた物を、セイタカヤマシャクヤクに名称変更をする必要が無くなってしまいます。これを検証するには、その種子を蒔いて現れる形質を確認する必要が有ります。もし種間雑種であれば、形質が安定せず色々なものが出て来る筈です。山形の研究者はまだその種子を蒔いておられませんでしたので、それをお願いしたところ、赤色のヤマシャヤクの種子を快く分けて頂けました。早速その種子を蒔いてみたのですが、発芽率が悪く1本しか発芽しませんでした。その株は現在まだ栽培中ですが、発芽率だけでなく成長も遅いので、確認にはもう暫くかかりそうです。

ただそれがたとえ種間雑種であっても、今までのベニバナヤマシャクヤク又はセイタカヤマシャクヤクが、ヤマシャクヤクとは別種であると言う事には変わり有りません。

ヤマシャクヤク系統樹

以上の事から、私が今予想しているヤマシャクヤク系統樹は、次の様なものです。最初に中低山の開けた草原にセイタカヤマシャクヤクが存在し、そこから日照環境の悪い明るい落葉樹の林床に耐えられる種が現れて来たと思います。それが赤花のヤマシャクヤクではないかと思います。初めは花の色が赤かったのが、早春は白の方が虫を集めるのに有利だったので、花が白い今のヤマシャクヤクが現れたのでしょう。元のセイタカヤマシャクヤクは、草原での他の植物との競争に負けて、より標高の高い草原に移って行ったのだと思います。セイタカヤマシャクヤクは種子は沢山作れても、その後の発芽や幼株の生存率が悪いので、どうしても競争力が劣ります。その点ヤマシャクヤクは種子は少なくても、発芽率や生存率は高く競争が少ないので、林床の中でひっそりと数を維持して行けたのでしょう。またセイタカヤマシャクヤクやベニバナヤマシャクヤクは、赤色が珍しかったので人による乱獲も有ったと思います。これが正しいかどうかは、遺伝子解析が行われればはっきりすると思います。

 

次回は庭の春の芽出しの状況をお届けします。

 

デワノマタタビ

マタタビマタタビ属の6番目の種?

従来日本に自生するマタタビ属の種は、シマサルナシ、ウラジロマタタビマタタビ、ミヤママタタビ、サルナシの、5種とされていました。私はそのサルナシの中に、サルナシとは異なるデワノマタタビと呼ばれる、別種が含まれていると考えています。かなり前に清水大典氏がその著書の中で、「サルナシ科の中にデワノマタタビという種がある」と記しておられましたが、サルナシとの違いや分布等の詳しい記述は有りませんでした。その為そこに書かれたデワノマタタビがこれから述べるデワノマタタビと、同一の植物と断定する事は出来ませんが、私はその中の僅かの記述から推察して、同一の植物であろうと思います。これから述べる「サルナシとデワノマタタビは別種である」と言う論旨については、まだ学会等一般に認められたものではなく、あくまで私が現地で現物を調べ、栽培による確認をした結果に基づいた私見です。将来一般的に追認されて来る事を期待しています。

サルナシとデワノマタタビの相違点

ではそのサルナシとデワノマタタビは、どの様に異なるのかを、以下に相違点について、項目毎に記載します。

◆ 染色体の倍数

サルナシは4倍体、デワノマタタビは6倍体。

◆ 自生地と分布状態

サルナシは全国的に満遍なく連続して中低山に自生、デワノマタタビ新潟県、長野県北部、福島県会津山形県に限られ、中低山から高山に比較的小さな離れた集団を作る。日本海に面した豪雪地帯とほぼ一致する。

◆ 樹姿

サルナシは高木に絡むものが多く、デワノマタタビは低木に絡むものが多く、地上を這う事もある。

◆ 樹皮

サルナシは平たく薄い皮状、デワノマタタビは縦に割れた厚い板状。

◆ 葉

サルナシは形は先の尖った円形で、滑らかな皮革質で葉柄は赤い、デワノマタタビは形はやや長方形で、面積はサルナシの2倍程で表面にうぶ毛が生え葉柄は緑色。

◆ 果実

サルナシは形は球形で、色は薄茶色で、単為結果はしない、デワノマタタビは形は根元がやや膨らんだ俵型で、重量はサルナシの2~3倍で数も多く、色は薄緑で、単為結果する。

◆ 蔓(新梢)

サルナシは表面が赤みがかって長い、デワノマタタビは表面が白っぽく太く短い。

 

この様な相違点が有りますが、染色体の倍数を除けば、一つの項目だけでは判定出来ません。総合的に見て判定します。

デワノマタタビに出会った経緯

十数年前に長野県小谷村で、サルナシのジャムを作っておられる方の畑を見せて頂いた際、その木を一目見てサルナシとは別種と感じました。そこで「これ本当にサルナシですか」と尋ねると、「近くの山中で良く実を付けたサルナシを見つけたので、それを畑で栽培している。この地域ではこれはサルナシと呼んでいる」との事でした。そこで付近の山を調べてみると、沓形山の林道傍や雨飾山の登山道傍に何株か同じ様な株が見られました。その後各地を廻って、その分布と資料を調べました。分布は判明したのですが、資料は見つかりませんでした。でもマタタビ科の植物の研究者として香川大学の片岡先生が居られる事が分かり、私よりも数年前に6倍体のサルナシの存在に気付かれて、その調査研究をされておられました。そこで私の調査資料を渡して、その研究の足しにして頂きました。

単為結果の検証

このデワノマタタビを建物の日除けに使ってみようと思い、湘南地域に在る二階建て平屋根の建物の屋上に棚を作り、そこに這わせてみました。植えたのは小谷村の栽培者から頂いた雌株ですが、デワノマタタビの雄株は無く、近くにキューゥイの雄株も無いので、花が咲いても実は期待出来ないと思っていたので、日除けとして使う事にしたのです。でも花が咲いてみると、全ての花が実を付けたのです。次の年念のため他の花粉が付かない様に、花に袋を被せてみたのですが、それでもしっかり実を付けました。この株だけの特異な形質かもと思い、各地のデワノマタタビの雌株を、3株植え足してみましたが、その全ての株が実を付けました。その熟した果実を割ってみると、中に小さい黒い粒の種子は有りませんでした。この結果からこの種は受粉しなくても果実が付く、単為結果をすると結論付けました。この形質は他のマタタビ科の種には見られません。

暖地での栽培

試験的に湘南の様な暖地で日除けとして植えてみたのですが、予想外に自生地よりも良く育つ事が分かりました。日照も気温も問題有りませんでした。花と実の数は自生地の倍近くになります。最も良く実を付ける株では、花が11節に付いていました。また雄株を傍に植えたり受粉をしなくても実を付け、施肥や消毒をしなくても良く育つので管理が楽です。単為結果の実は小さいのですが、キューゥイの受粉を受粉すると、25g程の大きな実が取れます。実の収穫は湘南地域では、9月末頃に全て収穫し室内の風通しの良い所に広げて、追熟させて柔らかくなった物から順に選んで使います。暖地でもこんなに良く育つのに、なぜ豪雪地帯にだけ自生するのか、その理由はまだ分かりません。

利用法

生食以外にジャムにして食べています。山取りの株は何れでも食用になる訳ではありません。野生の物は渋みやエグ味の有る物が多く、サルナシと同様に食用に向いているのはごく僅かの株ですので、栽培するときは枝を採取する前に実を食べてみるか、栽培者から枝を分けて貰う方が良いでしょう。実は皮が薄く産毛が無いので、柔らかくなればそのまま食べられます。味は淡白で甘味も酸味も僅かしか有りません。キューゥイよりも蛋白質分解酵素が多いので、肉や魚料理の食後の果物として良いかもしれません。

デワノマタタビの派生

デワノマタタビの分布を調べてみると、医王山や大山の麓に、少し小ぶりの葉や樹姿がデワノマタタビよく似た株が見られたので、香川大学の片岡先生に送って調べてもらったところ、染色体の倍数が4倍体だったのでサルナシでした。この様な株から染色体の倍数を6倍体にするものが現れ、デワノマタタビになって日本海側の豪雪地帯に広がって行った様に思われます。そのサルナシも、太平洋岸に分布していたウラジロマタタビから、染色体の倍数を4倍体にして、高地や寒冷地に進出して行ったのだろうと思っています。このデワノマタタビもそのサルナシと同じ方法を使って、より寒冷地の豪雪地帯向きにして分布を広げて行った様に思います。

 

f:id:tanemakijiisan:20210220111751j:image

収穫前の物

f:id:tanemakijiisan:20210220111520j:image

単為結果の大き目の物

次回はセイタカヤマシャヤクを取り上げます

 

 

 

 

木性蔓植物の花を早く咲かせる誘引法

一般の樹木では、実生苗や揷し木苗はかなりの年数を経ないと、なかなか花を付けない事が多いのです。早く花を咲かせる方法として、「成木痛め」と称して幹や根を傷付ける方法が有りますが、木性蔓植物の場合は、特殊な誘引法を採ると早く花を咲かせる事が出来ます。ここでその誘引法を解説します。ただこれは実を早く付ける事では無いので、間違えない様にして下さい。

誘引作業の手順

その誘引法を手順を追って説明して行きます。なおこの手順の説明に出て来る数値は仮の数値で、実際に使う数値では有りません。説明をわかり易くする為のものです。

① 苗を1本仕立てで、1年又は2年かけて5m以上伸ばす。葉は全て残すが,脇芽が出たら全て欠き取る。

② 苗の根元に、先端が二股になった支柱を、地表から2mの高さに立てる。

③ 支柱の側に、地表から1.2mの高さの棚を作る。

④ 葉が落ちた冬に、5m以上伸びた蔓を支柱の先端の二股部分に掛ける。蔓が折れない様に緩い円弧を描く様に掛けておく。

⑤ 掛けた蔓の先を下方に下ろす。強く引っ張って折らない様に注意する。

⑥ 下方に下げた蔓の先端部を、水平に棚に這わす。棚に這う蔓は2m以上になる。

⑦ 次の春に水平の棚の部分の蔓だけを伸ばし、秋まで充分に日に当てる。根元から棚に至る迄の幹から盛んに芽を出して来るので、其れ等の芽を欠き取る。来季以降も良く芽を出すので、同じ様に管理する。

⑧ 棚の部分の蔓に付く芽が、翌春花を付ける枝の芽になる。翌春から棚一面に花が付く。

この誘引法の要点は、根元近くに垂直に下げる部分が有る事です。この例で言えば、80㎝下げています。この下げる高さは樹種により異なります。アケビが一番少なく、30㎝で効果が出ます。ヤマブドウやサルナシは、80㎝以上必要です。下げる位置は出来るだけ根元に近い方が効果が有り、中程や先端部を下げても効果は有りません。ただあまり根元近くで引き下げると、棚が低くなってしまうので、この例の棚の高さが適当でしょう。

考えられる理由

この様に誘引すると花が咲く理由として考えられる事は、蔓を通常の状態とは逆の、下げる部分を設けている事です。この部分によって根から吸い上げて上部に送る動作と、葉で作られた澱粉や生成物を根の方に送る動作の、両方が逆向きになり抑制され、その結果花を作るホルモンが異常に多く生成されるのではないかと思います。

この操作の利用法

実生や揷し木で作った苗を植えると、花が咲き始める迄かなりの年数が掛かります。特にヤマブドウマタタビ科の様な雌雄別株の実生株では、雌雄が分かる迄不要な株も長く育てなくてはなりません。木性蔓植物の場合は、この方法で育てれば4,5年で判別が出来ます。また花粉樹に使う雄株の場合は、早く花が咲く以外に、花の数が異常に多くなる利点も有ります。もし中々花が咲かない蔓植物が自宅に在る方は、是非試してみて下さい。

この誘引法の発見の経緯

二十数年前に四万十川の河岸で、葉の異常に細かいイツツバアケビを見つけたので、蔓を採取し庭に揷し木をしておきました。伸びた葉は普通の葉になってしまったので、そのまま放置しておいたところ、棚に這わずに隣の柿の木に巻き付いてしまいました。気付くのが遅れたので、一部の太い幹を残して棚に誘引した結果、根元付近を下げる誘引になってしまいました。誘引した翌々年に突然棚一面に、すごい数の花を咲かせました。その原因は引き下げた誘引に有るのではと考えて、ヤマブドウとサルナシで、1mと80㎝引き下げた誘引をしてみると、やはり翌々年に全ての芽に花が付きました。

注意点

この誘引法で沢山の花を咲かせても、沢山の実が早く付くと言う訳では有りません。初めは殆ど実が止まりませんが,年が経つと段々実が止まる様になって来ます。それでもこの誘引法を使わない場合よりは、早く実を付ける様になります。また既に有る太い蔓は誘引出来ませんが、どうしてもやりたい時は、曲げる部分の幹に軸方向に30㎝程の長さのスリットを4~6本入れて、その部分を撚りながら曲げてみて下さい。

 

次回は「デワノマタタビ」を取り上げます。

 

 

 

 

 

ザロンバイ(座論梅)

やっと暦の上では春になりましたが、春に先駆けて最初にわが家の庭に咲く木の花がウメです。今年はウメやスイセンの開花がかなり遅れている様に思います。12月初めに咲き始めた冬至梅も、その後開花が止まり1月下旬にやっと満開になりました。例年1月下旬に満開になるザロンバイが、2月中旬になってやっと満開になりそうです。このザロンバイについては、あまり知られていない様ですので、詳しく紹介します。

名前の由来

昔中国で物事を決める際、皆が一堂に集まって議論を交わし、その議論に敗れた者が一人また一人とその場を立ち去り、最後に残った者の主張が通ると言うやり方を「座論」と呼んだそうです。このザロンバイも花が咲いた時は、花の中心の雌蕊が3〜10本有りますが、花が散って子房が大きくなるに従って、大きくなれなかった子房が一つまた一つと落ちて行き、最後まで落ちなかった1つ又は2つが実に成ります。この一つ一つ落ちて行く様子が、その「座論」を連想させるので、この名が付いたそうです。ちなみに宮崎県に在る天然記念物の「座論梅」は、伸びた枝が匍匐する様に地面に接地して根を出し、株を広げて行く珍しい形態の梅で、江戸時代に隣接する藩主がその梅の側で、その所有権を議論した事から、この名が付いたそうです。全く同じ名称で同じ漢字ですので紛らわしいですが、片や実の成る形態と片や固有名詞とで、全く別ものです。

ザロンバイになる要件

ではザロンバイと呼べるウメとはどんなウメなのか、解説して行きましょう。まず第一の要件は、雌蕊が複数有る事です。花弁が一重のウメで雌蕊が複数有るウメは無く、従ってザロンバイは八重のウメになります。ただ八重のウメが、全て雌蕊が複数有る訳では有りません。八重のウメの雌蕊の数は、雌蕊が無い花が一番多く、次に多いのが雌蕊が複数有る花で、雌蕊が1本の花が僅かとなる比率になります。雌蕊、雄蕊、花弁は、元々同じ物から変化した器官ですので,どれか一つだけが多くなる事は不自然で,この全てが多くなるのが普通なのです。次に挙げられる要件は、強い自家受粉性を持つ事です。ウメは一般に自家受粉をしない木です。ちなみに果樹のウメでは「花香美」が八重の紅梅で、自家受粉性を持つウメですが、雌蕊は1本です。これはウメの中では珍しい形態です。八重の花は雄蕊の数も多いのですが,その花粉が受精能力を持っているとは限りません。多分受精能力が無いか弱い方が殆どだと思います。ですから八重の花も自家受粉する者は少ないと思います。即ちザロンバイと呼べるウメの要件は、雌蕊を複数持ち、且つ強い自家受粉性の二つを持つ事です。八重咲きのウメで雌蕊が複数有って、自家受粉をしない株はかなり有ります。その様な株が何年かに一度、ザロンバイの様な実の成り方をする事が有りますが、花粉を媒介する虫が花の時期に大量発生した年です。牧野富太郎氏の文献では、ザロンバイを一つの品種として扱われていますが、これは実の成る形態を表す分類で、品種ではなく枝垂れや八重咲き等の形態の一つと捉えるべきだと思います。

珍しいウメなのか

この二つが要件であれば、何処にでも有りそうに思えますが、一般に殆んど知られていないのは何故でしょう。考えられる理由は二つです。まず一つは、「この二つの要件を満たすウメは、殆ど存在しない」です。ザロンバイを知って以来、20年以上気にかけて八重のウメを見ているのですが、まだ1株も見つけられません。果樹園には元々この様なウメは植えませんし、観光梅園のウメは実を付ける手入れはしません。それ以外のウメを調べる機会はそう多くはありません。山梨県に、紅梅と白梅の2本が、県の天然記念物として有るのは、既知なのでそれは別です。もう一つは、「ある程度存在するのだが、気付かれない」です。私はこちらの方が、可能性が高いとのでは無いかと思っています。ウメは庭木の花木として手入れすると、実の付きがとても悪くなり、この要件に合っていてもなかなか気付かれないでしょう。これを見つけるには、花後1ヶ月程良く観察していなければなりません。この「本当に少ないのか、気付かないのか」の何方なのかは、多くの人の目を借りないと判定出来ません。もし興味のある方が居られれば、是非身近な所にある八重の梅を調べてみて下さい。

我が家のザロンバイの発見の経緯

20年以上前に庭木を纏めて譲り受けた時、その中の1本に八重の紅梅が有りました。それを果樹の様に手入れしたところ、沢山実を付ける様になりました。その中の実に双子が多かったのが気になって、翌春に花を良く観察してみると、全ての花の雌蕊が4本になっていました。花が散ると4個の子房が出来て、それが小豆大になると次々落ちて、殆どが1個になっていました。文献で調べてみると、これと同じ様な実のなり方をするウメとして、ザロンバイと言うウメが有ると書いてあり、初めてザロンバイと言うウメを知りました。入手したウメの花は雄蕊の数が多く、中心にある雌蕊の柱頭が隠れる様に、雄蕊が覆い被さっていました。この状態では虫が来る前に風がなくても、自然に受粉してしまいます。ちなみにこのウメの実は、皮が薄く種子が小さめで、梅干し用に適している様です。ただし酸味は白加賀よりはかなり弱い様です。また自家受粉が強い為、成るに任せていると成り年と裏年の差が、激しく出てしまいます。また成り年の時は、摘果しないと小粒の実になります。

ザロンバイの用途

このザロンバイの要件の一つに、強い自家受粉性が有りますが、この花粉には自身を受精させる能力だけでなく、他の株の花を受精させる力の方が更に強い事が考えられます。つまり花期さえ合えば、とても強力な花粉樹としても使えると言う事です。以前は果樹の花粉樹は、雄蕊の数が多いと言うだけで、花粉樹に選んでいましたが、今はその花粉の受精の良さを基準に選ばれています。このザロンバイは、花粉の量も受精の良さも持っています。ただ花粉樹として使う場合は、実がなり過ぎて成り年と裏年が生じ無い様、摘果作業が必要です。

またこの自家受粉性がとても強い事を利用して、何代にも亘ってザロンバイだけを選び、自家受粉を繰り返して形質の純粋化した品種を作り、農薬や肥料や環境等に関する栽培比較実験に、試験用種子の採取株として使えると思います。この様な実験には、使う種子の形質が揃っていないと、正しい判定は出来ません。医学で使うマウスの様な物です。虫による他家受粉をしてしまう確率が低いので、容易に作れると思います。入手した木がザロンバイと判明した次の年、その種子を1個蒔いてみました。発芽後5年目に実を付けました。花は薄桃色の八重咲きで、雌蕊は全て3本でした。花は殆ど受粉しましたが木が若い為か、実は僅かしか残りませんでした。でもザロンバイである事は確認出来ました。この木はその後ウメ農家に花粉樹として引き取って貰いましたが、周囲の木の結実が良くなったとの報告を受けました。

f:id:tanemakijiisan:20210125201341j:image

ザロンバイの花

f:id:tanemakijiisan:20210125205448j:image

実が落ち始める前のもの (19年3月24日)

 

 

次回は、「木性蔓植物の花を早く咲かせる誘引法」を取り上げます。

 

 

 

ミヤママタタビの平地での栽培

ミヤママタタビ

ミヤママタタビ中部地方や関東地方では、標高1500~2000mに自生するマタタビ科の木性蔓蔓植物です。マタタビ科の中では最も標高の高い所に自生しています。平地での栽培は難しいと思われて、栽培はされていない様です。ただ果実は採取が困難で小さいが、栄養価に優れているらしいと言われていました。

ミヤママタタビの栽培の試み

このミヤママタタビが、平地で栽培出来るか確認してみる事にしました。これは以前、高地に自生するセイタカヤマシャクヤクを栽培した時、色々な栽培条件を試して、平地での最適な栽培条件を見つける事が出来ましたので、その栽培条件の求め方をミヤママタタビに試してみたかったからです。苗は以前からお世話になっていた研究者から依頼されて作った、揷し木苗の残りを使いました。植え付け場所は、湘南の標高30~40mの所に建つ、二階建平屋根の建物の西壁面下にしました。この場所を選んだ理由は、そこの日照が午後12時から3時迄の3時間ある所だったからです。これはセイタカヤマシャヤクで、日照時間を色々試した方法を参考にして出した条件です。苗を植え付けるととても良く成長し、2年で高さ7mの壁面の上端に達して、4年で壁面の上側2/3を覆ってしまいました。成育状態は3月上旬に芽出し、3月下旬から4月上旬に開花し、7月中下旬に果実を収穫し、10月末迄蔓の先が伸び続けています。これらの時期と期間は栽培地の気温によって決まる様です。湘南での成育期間は自生地の2倍程になります。葉の大きさは自生地と同じです。4年過ぎると一部の葉がミヤママタタビ独特の桃色を呈して来ます。これは遠くからでもよく目立ち、花粉を媒介する虫を呼び寄せる為です。この変色は雌株だけでなく雄株にも現れ、雄株の方が少し鮮やかです。花は枝の根元近くの3~4節に付きます。キューゥイの雄株の花粉で受粉すると、ほぼ全てが結実します。実の数は自生地の3倍程で、大きさは自生地より少し大きめです。摘果せず全て成らしても、翌年に裏年になる事は有りませんでした。果実の味は淡白で、不味いとか食べ難い様な物ではなく、後味も問題有りません。もしこの実が優れた栄養価であれば、将来栄養補助食品としての価値が出て来るかも知れません。壁面から屋上の平な部分に進出した枝は、伸びが悪くなり葉の大きさも壁面の半分くらいで日焼けし、花は良く付くのですが、実は壁面の半分くらいに小さくなっています。この屋上の日照時間は10時間程になり、日照時間が長過ぎて栽培場所としては適して無い様です。

この栽培結果からすると、ミヤママタタビは、温暖な平地でも日照時間を制限すれば、栽培出来ると言う事になります。

標高と日照時間と気温の関係

この栽培地では日照時間は3時間が最適条件だと思いますが、自生地では10時間以上有っても、とても元気に繁茂しています。これは栽培地の標高(=気圧=気体濃度)と日照時間が関係していると思われます。気圧の低い自生地で、長時間かけて炭酸同化作用をする構造に作られた葉を、そのままで気圧の高い平地で長時間使うと、葉が障害を起こしてしまうのでしょう。障害を起こさない時間は、3時間程度だろうと想定していたのですが、多分それで合っていたのだと思います。この過剰な日照時間の代わりに、日照量を寒冷紗で弱めると、それでも葉が日焼けしてやはり障害を起こす様です。短時間の直射日光でないとだめな様です。この関係を20㎞程離れた標高の同じ様に低い場所で、栽培実験をして確認してみました。直植えではなく大きめのプランターを、10m程離れた2ヶ所に置きました。一方は日照時間3時間、もう一方は日照時間8時間の所です。結果は8時間の株は葉が小さく日焼けして、枯れる事は有りませんが枝の伸びが悪く、3時間の株は枝もよく伸びて、葉も普通の大きさで沢山付けました。この結果からも、標高と日照時間の関係が確認出来たと考えています。気温については、成育期間や開花や実の熟す時期に影響しますが、栽培そのものには影響しない様です。高温についても、熱帯夜や真夏日が何日も続いても、成育には問題有りませんでしたので、かなりの耐暑性が有りそうです。標高の高いところでは紫外線が強いので、それに対応する構造が耐暑性を高めているのかも知れません。

この日照時間と標高の関係は、セイタカヤマシャヤクでも同じ傾向でした。

剪定法

ミヤママタタビマタタビ科の中で、実を付ける位置が異なりますので、剪定法もキューゥイやサルナシとは違うやり方になります。実を付ける結果枝になる芽の位置が、他のマタタビ科の木は、前年に伸びた充実した枝の根元近くの芽になりますが、ミヤママタタビでは前年に伸びた充実した枝の、先端3分の1の所の芽になります。ですからキューゥイの様に,前年に伸びた充実した枝の根元の3、4芽を残してその先を切除してはいけません。ミヤママタタビでその様にやると,結果枝の芽を全て切り捨てる事になり、花は咲きません。ミヤママタタビは前年に伸びた充実した枝の、先端5分の1の所で切ります。細く弱い枝は、他のマタタビ科の物と同様に根元から切除します。果樹の中では、カキに似た実の付方で剪定方法も似ています。

f:id:tanemakijiisan:20210119230533j:image

 

f:id:tanemakijiisan:20210117205003j:image

 

f:id:tanemakijiisan:20210117205223j:image

桃色になった葉

何故自生地から出ないのか

自生地に比べこの平地の温暖な地で、これほど良く育つのに、何故今の自生地から広がらないのでしょうか。それは成育に適した日照時間の場所が非常に狭い範囲で、集団を形成出来ないからかも知れません。また葉が標高の低い所で長く日に当たると障害を起こすのは、標高の高い自生地から出ない様に、故意にその様にしているのかも知れません。厳しい高地で種を長く温存する、生き残り戦略かも知れません。

種間雑種

この実から何回か種子を採取し蒔いてみましたが,一株も発芽は見られませんでした。やはりキューゥイの花粉を掛けているので、余程の偶然が無いと発芽しないのでしょう。以前一度だけサルナシにキューゥイの花粉を掛けて、一株だけ発芽した経験が有りました。このミヤママタタビも、数百とか数千の実を蒔けば種間雑種が得られるかも知れませんが、このコロナ禍の状況では無理です。

 その他

残念ながらこのミヤママタタビは、壁面栽培ですので手入れに設備と時間が掛かり、このコロナ禍では手入れが出来ず、やむを得ず今年から放置する事にしました。隣に雄株を植えておきましたので、上手くすれば虫が来て実を付けるかも知れません。今はそっと見守る事しか出来ません。

マタタビは揷し木苗を定植すると、すぐ近所の猫に持って行かれました。3回続けてやられたので栽培は諦めました。このミヤママタタビは、どの猫も全く関心は示しませんので、安心して栽培出来ます。

 

次回は「座論梅」を取り上げます。